アスペルガー症候群の僕が社会に過剰適応した話10

前話: アスペルガー症候群の僕が社会に過剰適応した話9

 Sさんとの出会いで少しだけ変わった自分

 Sさんとの出会いは僕にとって後々に続くくらい衝撃的な経験でした。自分がどのように自分を見ているかという話と、他人がどのように自分を見ているかという話は全く違うのだなということを、(今思えば当たり前ですが)はじめて、かつ非常に鮮明に思い知らされました。思えばこの体験が自己のメタ認知の原初的体験だったのかもしれません。僕は「自分が他人からどう見えているか」ということについて残念なほど想像することができず、結果的にコミュニケーションや自己認知に齟齬をきたしていたのです。


 例えば、自分の意図しないポイントで他人が怒り出してしまう、というのも、「自分が良かれと思って行ったコミュニケーション」が、相手にとって気に障るものであったということであり、それは僕が相手が感じるであろうことをうまく想像できていなかった、ということです。とはいえ、この段階(就活中)では、それが僕の認知のゆがみによって生じているものであるとは、当然ながら全く気付いておらず、「自分は努力が足りない」「なぜこんなこともできないのか」と自分を責めがちであったように思います。今当時の自分を振り返ってみると、本当に五里霧中というか、どのように適切に振舞うべきかほとんど想像できず、失敗経験を帰納的に積み重ねて、徐々に「一般的に適切と言われている振舞い」をとれるように学んでいくしかありませんでした。とても生きづらかったと思いますw


 それでも、Sさんとの出会いによって、衝撃的なフィードバックを受け、「ハリボテの自信を持つより、自分の不器用なところも認めたうえで、真摯な姿勢でコミュニケーションをとっていこう」という気概が芽生えたのは事実です。そのマインドセットは、就活を進めるうえで大きなプラスになったと思います。それまでは、本当に「いわゆる一流とされている大手企業」しか受けていなかった自分ですが、より視野を広く持とうと思い至り、ベンチャー企業も含めて、自分が興味を持った企業に積極的に応募するようになりました。そんな形でたまたま出会ったのが、後に内定をいただき、新卒で入社することになるベンチャー企業でした。


 そのベンチャー企業は、あるイベントでたまたま知ったのですが、社長が非常に人として魅力的で、目先の利益ではなく社会への貢献を全面に押し出した採用戦略をとっており、学生の僕から見ても異彩を放っていました。人事の方と話してみると、その方もとても魅力的で、非常にかっこよく見えました。この点、いずれにせよ分かりやすいキーワードに弱い点は悲しいかな、僕の視野の狭さによってもたらされる特性なので変わらないのですが、単に人気のある企業しか見ていなかった場合に比べて、短絡性は若干は払しょくされたとは思います。また、事実、社会人として人生における多くの時間を使って仕事にフルコミットするからには、社会的意義の大きな仕事に携わりたい、という「意識高い系」の考えを持っていたので、そのベンチャー企業の掲げるビジョンは、当時、自分に合っている、という確信めいたものを持っていました。


 採用を受けてみると、相変わらずハリボテのコミュニケーション能力なのでしどろもどろの面接だったのですが、「君はまだまだだが、パーソナリティとしてはわが社に合うと思う」と人事の方が言ってくださったり、さまざまな運も手伝って、無事内定をいただくに至りました。


 ようやく就活を終えましたが、他者的な視点、一般的な視点に過剰に敏感であった自分は、「大手企業に行くことができなかった」というある種のコンプレックスを抱えることとなります。それでも、その気持ちを原動力に、内定をいただいた企業でインターンをすることになりました。そこで、今の妻と出会うことになります。

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