あの頃ビア・ハウス:ただ一度の贈りもの

         
        当時のアサヒビアハウス梅田入り口

二次会会場として会社の仲間と流れ込んだアサヒ・ビアハウス」の持つ雰囲気に魅せられ、わたしはやがて一人でも入るようになった。結構度胸があったのだ。

女一人の出入りが珍しいことが手伝ってか、しばらく通ううちにまもなく顔パスの常連のようになった。実を言うと払わなくても生ビールを飲めるようになったのである。なに、もう時効だから種を明かしてしまうと、店長の塩さんやその他、立ち飲み席にいる常連さん達がおごりで差し入れてくれたのでした。


店長の塩さんと歌姫宝木嬢にスカウトされた形で、いつの間にかわたしは週に3、4回、6時半から閉店の9時まで、会社が退けた後、アサヒ・ビア・ハウスの小さなステージで歌うことになった。しかし、わたしがビア・ハウスで歌うように要請されたのは、自分がこれまで歌ったことがない、ほとんど耳にしたこともないドイツ語の歌である。

どうする?英語ならなんとかなりそうだが、ドイツ語など、まして歌の基礎を習ったこともないわたしにできるか?楽譜は読めるし音感ならいいのでメロディーはすぐ覚えられるが・・・・今なら、ネット検索してカタカナ読みで誤魔化しもきくだろうが、当時のコンピューターと言えば、我がオフィスの本社にあったような巨大なアナログコンピュータがせいぜいであった。与えられたドイツ語の歌詞を手に、正直言ってわたしは途方にくれた。  

アサヒビアハウスへ遊びに行く度に、宝木嬢が歌い、ホールの聞き手の常連が大いに盛り上がる、わたしも好きな歌があった。

         ♪ダス・ギブツ・ヌア・アインマル 
          あこがれの楽園に  夢見る喜び
          ただ一度  二度とない
          あわれ  そは夢か
          春の日はただ一度  春の花もひととき

       1934年のドイツ映画オペレッタの最高傑作と言われる「会議は踊る」の主題歌
「ただ一度の贈り物(Das gibt's nur ein mal)である。


ナポレオン敗退後のヨーロッパをどのようにまとめていくか。オーストリアの名宰相メッテルニッヒが諸国の代表を招いて開いた、世に言う「ウィーン会議」を舞台にしている。その会議に出席するため、ウィーンを訪れていた若きロシア皇帝アレキサンダー一世と市井の人、手袋屋の娘クリステルのひと時の恋を描いた映画だ。皇帝差し向けの華麗な馬車の人となって、皇帝の滞在する邸へ向かいながら、クリステルが喜びを絶唱する歌が、

  ♪ Wein' ich? Lach' ich?       ヴァイン イヒ ラッハ イヒ
   Träum' ich? Wach' ich?       トロイム イヒ ヴァッハ イヒ
   Heut' weiß ich nicht was ich tu'. 
   ホイ(ト) ヴァイス イヒ ニヒ(ト) ヴァス イヒ トゥー 

で、始まる「ただ一度の贈り物」だ。この心躍る楽しいメロディーをで表現できないのがまことに残念である。

「ただ一度、二度とない、春の日はひととき、春の花もひととき」
人生もまたこの歌のごとく。ただ一度の人生を、わたしも挑戦して目一杯生きてみよう、歌ってみようとわたしはそう思い直し、自分を激励した。
  
20代も後半、わたしはドキドキする胸の動悸を抱いて、梅新アサヒ・ビア・ハウスの歌姫デビューをしたのである。

予断だが、宮崎駿氏のアニメ作品「風立ちぬ」の中で、この歌が使われているそうだ。映画の中盤、軽井沢のホテルのバーでドイツ人がこれを歌うシーンが出てくるとのこと。こう言っては何ですが、我が先輩歌姫宝木嬢の「ただ一度の贈り物」は本当に素晴らしかった。

興味あらば、こちらでお聞きいただけます→「ただ一度の贈り物
メドレーになっていますが、最初の曲が「ただ一度の贈り物」です。

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