謎を解明‼︎伝説のシチューの話。

このシチューの正式なネーミングは「昔のシチュー」である。

祖母から母へ繋がれたおふくろの味である。

その昔、神戸の弁護士さんのお宅で働いていた祖母が、ハイカラな洋食として覚えてきたのがこのシチューの始まりであったそうだ。

明治生まれの祖母は、尋常小学校しか出ていない。

色々と複雑な家庭環境に育った祖母は、わが家の長女JKドカ弁くらいの歳に田舎から奉公に出向いた何もかもが新鮮な神戸の街でたくさんのことを学び、素敵な弁護士さんに見初められ求婚されるというドラマチックな青春時代を送ったそうである。

当時はブイヨンを使う習慣などなく、塩、こしょう、醤油、酒で味つけられたシンプルなスープであったようだが、薄切りのやわらかい神戸ビーフと野菜を煮込んだスープはシチューと呼ばれており、スープ皿に注がれ、箸ではなくスプーンでいただくものとしてとてもハイソな雰囲気に包まれた食べ物であったようだ。

そのシチューを祖母は私たちに「昔のシチュー」と言い、野菜はサイコロ状に細かく切って入れるんやでと昔を思い出しながらよく語ってくれたのを覚えている。

祖母が亡くなってからも母がこのシチューを作ってくれるたびに祖母の顔が思い出され、世界で一番美味しい「シチュー」だと思っていた。

結婚してから全く作ることもなく忘れていた昔のシチューを食べたくなり、母に電話して聞いてみたのである。

「なぁ、お母さん!昔のシチューの作り方教えて!」

「あー、あれ作るの?えっとね、牛脂を鍋で溶かして切った野菜を入れて水を入れるんよ!野菜が煮立ったら牛肉入れるねん。」

驚きである。なんて斬新な!

「えー!!肉とか野菜炒めへんの!?」

「なんで?」

「いや、まったく想像してなかった展開で新しいわー!」

「新しい?なんでー、炒めへんよ、そんなん。そこに薄口入れて濃口もタラタラっと入れて塩コショウ入れて、酒もタラタラっと入れて、あとハイミーちょっと!」

「えー!それだけ!?ほんまに!?」

「ほんまよ!なんでー?」

「いや、ありがとう!それでいつも私らはおいしい!って食べてたんよなぁと思ってさー。」

「そうよ、あっさりしてるから昔のシチューなんよ!」

電話を切って爆笑していると、横で聞いていた夫がだいたいの話の予測がついていたようで、クスクス笑っているのであった。

「なぁ!炒めへんねんてよ!野菜も肉も!ブイヨンも当然なし!」

「いやいや、お母さんの作りはる料理って美味しいねんけど、スープ類はかなり薄味やった気がすんねんな、オレは。」

そう言われてみればそうかもしれない。薄いのだ、母の作る汁ものは。

試しに言われたとおりの工程で作ってみた。お味見係りの次女JSちゃっかりを呼ぶ。

「ちゃっかりー!お味見して!」

「はーい!」いつものようにキッチンに駆け足でやってきたちゃっかり。

一口食べて、こう言った。

「ママ、これ肉じゃが?味が薄いね。ちゃっかりはいつもの肉じゃがが好きやわー!」

「いや、ちゃっかり、これは肉じゃがじゃなくて”昔のシチュー”やねん!」

「シチュー?牛乳買い忘れたの?」

「いやいや、だから”昔のシチュー”やねんて!牛乳なんか入ってないスープやねんて!」

「ふーん。スープ・・・もう少し味を濃くしてね、ママ!」

足早にキッチンから逃げ出したのである。

やばい、これは思い出のシチューなのだ。伝説の”昔のシチュー”なのだ!

不味いシチューにして、美しい祖母との思い出を台無しにしたくない!

そう思い、夫に相談してみた。

「なぁ、やっぱりブイヨン入れてもいいよなぁ?味にパンチがなさすぎるねん。昔のシチュー。」

「えーんちゃう!ブイヨンでリカバリーきくなら。はよ、入れーな!」

おばあちゃん、昔のシチューに現代の美味しさを足しますよ!

えいや!で、レシピに新しい調味料を加えたのである。

結果。とっても美味しい「現代版 昔のシチュー」が完成した。

晩御飯にそれをよそって出すとちゃっかりが、叫んだ。

「おいしい!!!これ、ちゃっかり大好き!おかわり!!」

新しい時代に「新・伝説のシチュー」が誕生したのである。

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