お天道様は見てるはず。見回り清掃で見た社会的弱者の現実を知る。

ショッピングセンターの管理事務所の仕事の一つに「見回り清掃」というものがあった。

ほうきと塵取りとラジカセを持って、ショッピングセンターの中を一日一回巡回するのである。

「キャッチセールスの声掛けには応じないようにしましょう。」


こんな音声を流しながらゴミを掃いたり拾ったりするのである。

怪しいやつがいたらそっと近づいていき


「なにやってんねん。警察呼ぶよ・・・」


ボソボソと小声で威嚇するのが目的の見回り清掃なのである。


ショッピングセンターには毎日たくさんの人々がやってくる。

買い物をしたり、美味しいものを食べたりするひとときを楽しみに足を運んでくださる場所であるのだから、お客様の安全第一が管理事務所の仕事なのだ。


お客様の安全第一とテナントの売り上げアップを最優先に考える仕事をする中で、見たくない現実や哀しみを目の当たりにすることもしばしばであった。


見た目はいたって普通のおばちゃん。というよりおばあさんという年齢で自分の身を売って生活している人がいることを初めて知った。


自分たちが見回り清掃をはじめると、そのおばちゃんたちがさーっと素早く立ち去る様子までわかるようになってきていたある日のこと。



いつもの見慣れた最高齢のおばちゃんが自分の横を片足を引きずりながら通りぬけていくのに気がついた。

片足が不自由なのである。


おばちゃんは一人の杖をついて歩くおじいちゃんに声をかけた。


おじいちゃんもニコニコして応対していて顔なじみのようである。


「友達か?客か?いやいや、あんなおじいちゃんやしさすがにちがうか?」


そんなことを思いながら様子を伺っていたが、社用があったのでそのまま銀行に立ち寄った私。


すると、ATMの方から声がするのだ。


「大丈夫大丈夫!全部ウチに任せてくれたらいいからな!」


振り返るとなんと先ほどのおばちゃんとおじいちゃんなのである。

(何が大丈夫なんや!?おじいちゃん手引っ張られてるけど大丈夫なんか!?)


内心ハラハラしながら見ていると、なんとおばちゃんの手にはおじいちゃんのものと思われる銀行通帳が握られている。


「大丈夫やって!ウチにまかしとき。年金の日やろ!」


年寄りの年金の振込日を知っていて声をかけてたんか!

しかも自分も不自由な片足を引きずってる状態で、杖をついた足の悪いおじいちゃんに肩を貸して手をつなぎ、ATMに金を引き出しに連れてきているのだからやはり普通のおばちゃんではない。


銀行を出て、そのままホテル街のほうに2人で体を支えあいながら歩いていく姿を何とも言えない気持ちで見送った。



毎日のように朝から晩まで赤ん坊を抱いてうろうろしている若い男もいた。


「なんであの人毎日こんなところにきて赤ちゃん抱いてうろうろしてるんやろう?」

ずっと疑問に感じていたことを所長に聞いてみた。


「あー、あれはな、娼婦のヒモなんや。稼いでもらう時間子どもの面倒みるのが仕事なんやろ。でもな、あの赤ちゃんかって女の子やろ。母親とおんなじ道しか生きる術ないんとちがうかと思うと憐れや。」


涙が出そうになって言葉に詰まった。


当時まだ小さかった長女ドカ弁と同じくらいの年頃のその女の子の未来を思うとたまらない気持ちになったことを今でも忘れない。


その話を聞いてから何日か経ったある日のこと。


管理事務所にチンピラ風味の男と女の子がやってきた。

パンチパーマにアロハのその男はニコニコしながらこう言った。


「あのねーお姉ちゃん。この子なー道がわからんゆーてんねんわ。行きたい場所あるみたいなんやけど教えたってくれる?」



その女の子は満面の笑みを浮かべながら

「教えてたってくれる?」

パンチパーマの男と同じ言葉を繰り返した。


聞かれた場所を案内してやると、

「よかったなー!ほないこか!」

パンチパーマが女の子に優しく声をかけ、女の子はものすごく嬉しそうな顔で男に付いて事務所を出て行った。


「なんですかね?あの怪しいカップルは。おかしくないですか?」


黙って煙草を吸っていた所長に訊ねてみた。


「あれなー。あの女の子なー。何回もお腹大きなってるんや。子どもは産んでないみたいやけど、悪いヒモに次から次にえーようにされてな。知恵も遅れてるみたいやからわからんねやな。身寄りもおらんみたいやからあんなチンピラにでも付いてないと生きていかれへんねんやろけど・・・。」


罪を犯しながらもそれしか生きる道がない人たちがいる。


彼女たちが生きる術はほかに用意されることはないのだろうか?


繰り返される負の連鎖に終わりはないのだろうか?


毎日のように母親のヒモに預けられ、抱っこされていたあの赤ん坊はどんな女の子に成長しているのだろう。


どこかに保護され、人としての尊厳を奪われない暮らしをしていてほしい。



弱者を食い物にする悪い奴らにも、そうせざるを得ない事情はあるのだろうが、人を泣かせればいつかそれなりの報いがあることを覚えておいたほうがいい。


誰にも裁かれることなく法をすり抜けて、弱者を食いもんにしている輩には
「きちんと神さんが見てまっせ!」と言ってやりたい。

著者のIzumi Unimamさんに人生相談を申込む

著者のIzumi Unimamさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。