育児ノイローゼから救ってくれた防災センターのオトコ飯。

地下にある防災センターにはとても優しい保安員のおっちゃんたちがいた。

おっちゃんたちはとても穏やかだが、元自衛隊員の方なんかも多くて、なんでもできるワイルドな男たちなのであった。

例えば。

地下の従業員休憩室に大きなネコのようなサイズのネズミが現れ、従業員の女の子たちの悲鳴が管理事務所まで響きわたったことがあった。

事務所横の通路から女の子の悲鳴と共にドンドンドン!!!という振動が聞こえてきたのだ。

そう、大ネズミが猛突進で走る音であった。

「いやいやいや!!!無理無理!!!事務所に入ってきたら大変ですやん!所長!ドア!早よドア閉めてください!!!」

慌てふためいて所長に声をかけ、所長が素早く事務所のドアを閉めた。

「どうしましょ!防災センターに連絡しましょ!」

すぐに隣の防災センターに助けを求めたのであった。

「unimamです!ネズミです!たぶん相当デッカイやつです!」

「地下従業員休憩室に大ネズミ発見!了解!対応します!」

対応って・・・どうするんやろ?

そう思う自分をよそに、保安のおっちゃんたちは機敏に動き、木刀のようなものと青いゴミ袋を持ち、塵取りなども用意して現場に急行したのであった。

事務所のドアの向こうの通路からはおっちゃんたちのドスの効いた声と大ネズミが走りまわるドンドンドン!という振動音が聞こえてくる。

「ゴーラァ!!!そっちや!!!回り込め!」


普段の優しいおっちゃんたちとは明らかに雰囲気が違う迫力である。

ドス!ドスドス!という鈍い音が聞こえてきた。
そして静かになった。


恐る恐るドアを開けると、おっちゃんが手に持つ青いゴミ袋には何やら物体が入っている。


「あのーそれって・・・」

「あ!unimamちゃん!もうべっちゃないで!大ネズミ仕留めたから!」


いつもの優しいおっちゃんたちに戻っていたのであるが、木刀でネズミを仕留めるってワイルド過ぎて鼻水が出そうであった。


保安員のおっちゃんたちには、泊り、明けという勤務体系がある。
だから、防災センターには寝泊まりできる仮眠室に、お料理ができる調理場まであるのだ。

夕方自分が帰る支度をする頃になると、調理場からいい匂いが漂ってくるのである。

あ、今日は麻婆豆腐の匂いがするなーなどと思っていると、おっちゃんたちが声をかけてくれるのだ。

「unimamちゃーん!家帰ってからご飯ごしらえするん大変やろー!ちょっと入れたるから晩御飯の一品にしー!」

それらのおかずは、保安のおっちゃん特製「防災センターカレー」だったり、THEオトコ飯の代表「男のワイルド炒飯」だったり、防災センター料理長特製「ピリ辛麻婆豆腐」だったり。

とにかく毎日のように何かしら愛のこもった美味しいオトコ飯をテイクアウトさせてもらっていた。


今では高校生になったが、当時、長女ドカ弁はまだまだ小さくて、手のかかる時期であり、その上通勤時間は片道1時間以上かかり、家に帰ってから料理をするなんて地獄のような日々だった。

そんな状況の中、保安のおっちゃんたちの思いやりと優しさに甘えさせていただいたのであった。

その対照にいたのは自分の母であった。母は、子どもを保育園に預けて働く私に対して「ここだけは守れ!」という母オリジナルの掟のようなものを掲げて、それを厳守するよう口うるさく言うのである。

「子どもを預けて仕事をしたいなら、料理だけは親の責任である、母親なら子どものために料理くらいは手作りせよ!」

その修行のような日々を支えてくださったのは、保安のおっちゃんたちが
「これ持って帰って一品にしーやー」と持たせてくれたあの毎日のおかずなのであった。

あの時期、保安のおっちゃんたちが自分にしてくれたあの思いやり。

「ご飯のおかずの一品にしーやー」の甘えかしは、現在の自分を作ってくれた財産であると感謝している。

おかげで育児ノイローゼになることも、過労で倒れることもなく、大切な家族にもストレスというしわ寄せがいかずに済んだ。

長い人生の中には、身内より他人の思いやりが染みる時期がある。

防災センター特製「思いやりのオトコ飯」は、私と娘を救ってくれたスペシャルなご馳走であった。



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