インドの洗礼 その1 - 視線の死線 -

異国の地での冒険は、いつも空港から始まる。

インドはカルカッタ(現コルカタ)。

腐るほど時間はあれど、
クサるほど金がない、学生時代の海外旅行。

希望と不安を胸に、友人2人と共に、薄暗い空港に降り立った。

そこは、「喜びの都市」の意味を持つ、インド第三のメガシティ。

しかし、その街との出会いは、およそ喜びとはほど遠いものであった。

まずは、両替だ。

当時確か、日本では円からインドの通貨であるルピーへの両替ができず、現地で両替せざるを得なかったような記憶がある。

どうしよう。クレジットカードは使えない店があると言うし、、
ってよく考えてみたら、そもそもクレジットカードなど持っていなかったので、現地空港内の両替所に向かった。

ここで、早速異変を感知。

あれ?ここって売店?と見まがうほどさりげない佇まいの両替所。

その周辺に濃厚に漂っていたのは、鬼太郎も真っ青の、ただならぬ妖気だったのである。

両替所のすぐそばには小窓があり、その向こうに、見える限りで7〜8人の現地人がひしめき合い、腹を空かせて親鳥を待つ「ヒナ」達の如く、ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てながら両替所の様子を伺っていたのだった。

浅黒い肌に白い目が爛々と輝き、日本では郷ひろみやPerfume、それからDIO以外あまりお目にかかることのない、「視線のレーザービーム」が我々を容赦無く絨毯爆撃する。そこは正に死線なのだった。

両替所付近にいるのは、我々3人のみ。なんたる圧倒的重圧。おずおずと両替所の窓口に近づく。

薄汚れたガラスの中の、めんどくさそうな表情の職員と目があった。

爆縮する儚い希望、爆発的に広がる圧倒的不安。
恐らく、友人 2人も同じ心境だったと思う。

ガイドブック曰く、街ナカの両替所は信用に欠けるとのこと。
これをを踏まえ、2週間分の滞在費を両替することにした。

財布から抜き出した諭吉達が、数人窓口の向こうに消えていった。
両替所の職員が、相変わらずめんどくさそうな表情で金勘定している。

小窓の向こうで、固唾を飲んで見守るヒナ達。
その様子を、固唾を飲んで見守る俺達。見るな、見てんじゃねえよ。

しばらくして、職員がこちらに差し出してきたものを見て、ドン引きする俺達。

それは、予想を遥かに超えて分厚いルピーの札束だった。軽い辞書くらいのボリューム感。

俄かに色めき立つ「ヒナ」達。
「え、こんなに、、」背後で友人の 1人が思わずつぶやいた。もう一人は絶句。

両替所での「ちょろまかし」がないか、窓口で一枚一枚数える。指先が若干震えている。おそらく「ヒナ」達もご丁寧に数えてくれたと思う。

数え終わった紙幣は、リュックやポシェットに格納。どこにどのくらい収納されたかも「ヒナ」達には筒抜けだったろう。

この状況下で、俺達は恐らく「ヒナ」達の間を抜けつつ、空港から市内に移動しなければならない。

そう。俺達はさながら塩麹を自分でペタペタ塗りたくった「カモネギ」。

これから油を多めに引き、強火で熱したフライパンの上を通り抜けなければいけないのである。

市内への移動にはタクシーを使うことにした。慣れない外国のバスは目的地につけるか不安。
かと言って、そこらの「流し」のタクシーに乗り込むとボラれる恐れがあるとのこと。

それではということで、空港で手配する「プリペイドタクシー」を使うことにした。
代金は前払いだし、ある程度素性の分かっている人が運転するのだから、安全だ。

と、思ってた。

続く

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