【おっぱいセクハラ記】欲情の視線に耐える女の日々は、胸が膨らむ時期から始まる⑴
第二次性徴がもたらす変化のストレスは絶大
天真爛漫に、無邪気な子供として安心して暮らしていたある日突然、それは兆候を見せた。
あれは多分、小学四年生の頃で、お風呂上がりに体を拭いていた時のことだったと思う。
なんだか、胸が膨らんでる?
いつか大人になって、おっぱい大きくなったらいいな。
子供心にそんな憧れを持っていても、いざ自分の体の変化の兆しに気づいてみると、それはまず、物凄い恐怖でしかなかった。
ずっとペッタンコだったはずの胸が、何度見ても微妙に膨らんでいる。
何これ!誰か助けて!
今では「たったそれだけのこと」と思ってしまうけど、当時は、違う生き物に変幻してしまうような、そんな底知れない恐怖に、思わず体が震えた。
怖くて泣き出したいのに、なぜか恥ずかしくてそれもできない。
不安、恐怖、羞恥、孤独感、そんなものが一瞬で襲ってきて、しばらく酷い葛藤が続いた結果、悲しい気持ちになったことを覚えてる。
今までとは違う部分があるだけで、別物の自分になった気がして、家にいながらにして迷子になった気分だった。
どうしよう、イヤだ、怖い……ネガティブな感情に包まれながらも、変化が始まったら、変わって行くのは止められないんだと、その時にはすでに経験から知っていた。
小学生になりたくなくてもなってしまったし、赤ちゃんのようにママのオッパイを飲んでいたくても、大きくなったからという理由で飲めなくなった。
子供ながらに、成長という変化は止められない、仕方のないものだと学んでいた。
大きくなるたびに、それまでの心地よかった自分のポジションを失い、当たり前にあったものを求めても得られず、成長によって失ったものに関しては、諦めるしかないことも学んでいた。
だから、今回の変化もどうしようもないのだと、変化を見つけた瞬間に分かっていた。
だけど、これまでの慣れた変化とは違う。
身長が伸びること、体重が増えること、一歳ずつお姉ちゃんになっていくこと、そんな部類の変化じゃない。
別の自分に変身する、その感覚は、初めてのものだった。
その夜は、どんよりとした暗い気持ちのまま眠りについた。
そして次の日の朝、目が覚めるとしばらくボーッとしていた。
昨日、嫌な気持ちのまま寝た気がするんだけど、なんだったっけ?
これは、嫌な気持ちのまま眠った次の日の朝、いつもやっていたこと。
昨日の嫌だったことをわざわざ思い出して、嫌な気持ちの引き継ぎ作業なんてしなくていいものを、気がつけばいつもそうしていた。
そして思い出した。
そう言えば、胸が少し大きくなっていて、嫌な気持ちになったんだった。
思い出した途端、また嫌な気持ちになったけど、昨日感じていたほど、怖いとは思わなくなっていた。
朝になって、気持ちが楽観的になったからかもしれない。
勘違いかもしれない、勘違いだったらいいな、そんな期待を持ちながら、パジャマの胸元を引っ張って、中を覗き込んで見た。
はあー。やっぱり膨らんでる。あーあ。
勘違いじゃなかったことにガッカリして起き出すと、顔を洗いに部屋を出た。
キッチンには、いつものように朝食の準備をしている母の姿があった。
うちは何故か「おはよう」の挨拶がない家庭だった。
必然的に会話も始まらないし、会話する暇があるなら、さっさと着替えて家事の手伝いをしなさいと怒る母だったので、いつも怒られないように、喋ることもできなかった。
そんな状況だから、もちろん自分の体の変化について不安だなんて、甘えたことを言えるはずもない。
いつものように黙って、なるべく怒られないように、静かに母の後ろを通り過ぎる。
この時の私にとって何より一番の恐怖は、怒りっぽい母の理不尽な怒りをぶつけられることだった。
朝一番から、母の姿を見てはげんなりと嫌な気分になり、そこから一日が始まるのがずっと私の日常だったけれど、その朝は、胸が膨らみ始めたことも加わって、最高に嫌な気分だった。
部屋に戻って制服に着替えると、やっぱり胸が気になる。
昨日感じた恐怖をあまり感じなくなった代わりに、どんどん恥ずかしさが増してきた。
服を着ると、まだ目立たない。
だけど自分が意識し過ぎて、人に見られてもいないのに恥ずかしい。
数日だったか、数週間だったかはもう覚えていないけど、一人で勝手に恥ずかしがる日々は、結構続いた。
成長は止まらない。特に、第二次性徴期ともなると、変化は加速する。
一度膨らみ始めた胸は、日々すくすくと成長し、ついに服を着ていても目立ち始めた。
この時期から、いよいよ、人の視線を集める日々が幕を開ける。
同学年の女子も男子も、家族も親戚も知り合いも、胸が膨らむ前後を知っている人なら、必ず変化に気づく。
無意識に投げかけられる「おっぱい大きくなってきたね」という言葉と視線は、最高の羞恥と気持ち悪さを伴って、変化を受け入れきれていない私の心を、傷つけ続けた。
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