インドの洗礼 その4 -レシプト-

少しばかり、時計の針を戻そう。

我々が「黄色い鉄塊」でプンスカ発車した直後、白い歯麗しき運転手が、気さくに話しかけてきた。

運「どっから来た?中国?日本?」

俺「あ、日本す」

運「おー日本ね。俺っち結構日本人乗せてるよ。インド初めて?」

俺「初めてっす」

運「そっかー暑いでしょー。てかどこまで行くん?宿とか予約しとるん?地図は持ってるか?」

俺「いやーまだなんすよ。ガイドブックあるんで、まあ適当に探しますわ」

みたいな会話を、お互い訛りまくった英語で交わす。

優しい、感じのいい運転手。


、、、なんて、思わされてしまった。


嗚呼、なんたる愚かさよ。

成人したとは言え、田舎の大学生など、まだまだ世間知らずのひよっこ。

おまけに、初の海外旅行で舞い上がってしまい、注意力散漫。

運転手との何気無い会話の裏に隠された腹黒い思惑に、自分が重要な情報を図らずも垂れ流してしまったことにも、気づくことができなかったのである。


ガゴン!


と、俺がタクシーの窓でうっかりやって暫く経った頃。

運転手が突然豹変する。


運「ちなみに、タクシー乗車代金100ルピー払ってね。」

俺達「えっ!?」、、、一瞬耳を疑う三人。


100ルピーを空港でプリペイドタクシーの代金として、耳を揃えて払ってきた筈だった。


俺「いや、俺達 100ルピー払ったし」


と答えると、運転手。「証拠はあるのか。レシプトは?」と言う。


レシプト?
レシプトって?

目を見合わせる俺達。お互い小さく首を横に振る。


運「ルルレシプト!ルルレシプト!」


巻き舌で急かす運転手。
必死に頭を働かす俺達。

脳細胞達よ、オラに力を貸してくれ!


レシプトレシプト、、レシート?


「Receipt」!


さてはインド人、「Recipt」の「p」発音するのか!


きっちり100ルピー払った、と書いてあるレシートを、運転手に突きつける。


ガイドブックの片隅にあった、「レシートは捨てずに取っておくべし」の一言を覚えていてよかった。

おそらくここで「レシプト」をだせなければ、証拠不十分として追徴金をしつこく請求されるのだろう。


「レシプト」を一瞥し、眉をひそめる運転手。


勝った。



と思った。



甘かった。


続く

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