はじめての下北沢暮らし

  

上京して、3年がたった。

渋谷での仕事が終わって10時すぎ、雑踏を抜けて井の頭線に乗る。

ずっといい町だなあと思っていた、下北沢で降りて、

おんぼろの一軒家に帰る。最近越してきたシェアハウス、日本人は僕しかいない。

停電を気にして真っ暗なリビングと、あまり片付けられてない台所。やれやれと思いながらまあいいかと、夜遅いご飯をさっと作って、食った食ったと階段を上がり部屋に入る。

リュックを下ろして、窓をガラっと開ければ、ひんやりした冬の空気が部屋の中にそろそろと入ってくる。そして、1mgのよわいタバコを一本くわえて火をつける。


僕はこの時間が好きだ。

部屋の少しあたたまった空気を背中に感じながら、

身を窓の外に乗り出して、

静かな夜の空の下、ふーっと一息つく。


2階の窓の外からは、家路につく人、たまに通りかかる車が辺りを照らし、

1日をやさしくなだめるようにして、夜が更けていく。

オリオン座が綺麗に見えることもある。


キンと冷えた空気に、手をかじかませながら、ゆっくりとこの日最初で最後の1本を吸う。

窓辺に置いたiPhoneからは、冬らしいシンプルでゆったりとした曲を流し、

穏やかな窓の外を眺める。




上京して3年が経った。



いろんなことがあった。

大学を出て、就職活動をせずに、夢を見て飛び出した東京。

それを心配していた両親。


夢のために働き始めた会社。本当にいろんなことがあった。

いろんな人に迷惑もかけた。悩みに悩んだ。

地獄とさえ思った。成長もしたと思う。


この時間にこうして町の景色を眺めていると、そのすべてが凝縮されたように思い出されるから不思議だ。


東京に来てからの3年で、時間がありとあらゆるものを運んで流して、今、

少しずつ、少しずつ、何かが動き始めようとしている感覚がある。


刺すように寒い冬の空気が、どこかやさしく感じられる。

心地いい。


心配しながらも応援してくれる両親。

入社してから、僕は文句ばかり垂れていたけど、

ずっと育ててくれていたんだなと最近になって分かるようになった会社の上司。

同じ希望に夢をはせる仕事仲間。悩んでもがく自分と、それでも一緒に時間を過ごしてくれる数少ない友人たち。

そんな皆への気持ちと、未来への不安と希望、今はまだダメダメな自分と、

それでも大丈夫と自分をすこし許せるようになって生まれた、僕の中の小さなゆとり、前を向きたいという想いと決意。


上京してから3年。まだまだ僕の家はおんぼろのシェアハウスで、

唯一の楽しみと言ったら、こんな些細な夜の時間なのだけど、

でもそう、この時間が僕にとっては、とても新しく、幸せなものなのです。


上京してから長い間は色々な事があり、こういうことを感じる暇(いとま)も、

感じられる心もなかったから。だから、よりいっそう愛しい。


僕は、この時間が好きだ。



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