インドの洗礼 その5 −正義の敗北−

「あのねえ、100ルピーはタックス(税金)だよニーチャン」

涼しい顔で言い放つ運転手。

アツい。

なんて厚さなんだ、この面の皮。

税金とな。

100ルピーの代金に対し、100ルピーの税金だと?

日本じゃ8%だ、いや10%だ、と議論してる中、ぶっちぎりの税率100%。

「ふざけんなおめー払えるか警察行ったんぞ」

と、片言の英語でまくしたててみたら、

「よっしゃ行こうじゃねえか警察」と、予想外の運転手の反応。

「えっ?」

虚をつかれ、静まりかえる俺達。車外の喧騒が、まるで別の世界の出来事のようだ。

まあ警察に行けば大丈夫、、、なのか?自信がない。

ここで、友人がポツリと呟いた。

「てか、ホントに警察行くのかな。。」

、、、言われてみればそうだ。

運転手の言う「警察」が、本物である保証はどこにある?

連れていかれるのは実は「仲間のアジト」で、

みぐるみはがされてかんきんされていやさいあくないぞうとられたりあんなことやこんなことあああああ

と、想像力がどんどん悪い方向に膨らむ。

それは、現実に起こり得ることなのか?

運転手のハッタリに過ぎないのか?

何とも判断がつかない。

ただ一つ確かなのは、日本では考えられない無茶苦茶を、この運転手が実際にふっかけてきている、ということだ。

そう。振り返ってみれば、この運転手は、たわいないやり取りの中で、俺達の「ボッタクリ耐性」を値踏みしていたのだった。

「日本人か?」で金を持っているかどうか

「インド初めて?」でボッタクリ経験値

「宿の予約の有無」で計画性、下調べの度合い

といったところだろう。

見事全問「パス」した俺達は、カモネギ一号生筆頭へと昇格したのである。

「やべぇよ。。」

正義はこちら側。

だが、生殺与奪権は向こう側。

力無き正義は無力。

無力な正義が折れたのは、必然だったのかもしれない。

「分かった。金払うから降ろしてくれ」

友人の1人が言った。

それは、事実上の敗北宣言だった。

その後、50ルピーにしてくれいや100ルピーだだの、ゴタゴタ交渉した気もするが、最終的に幾ら払ったか正確には覚えていない。全額ではなかったとは思うが。。

覚えているのは、

幾ばくかの金をむしり取られ、

何処だか分からない街中に放り出され、

意気揚々と走り去って行く「鉄塊」の後姿を見送った時に、

心の中にジワリ広がった、安堵感交じりの敗北感。

おそらく友人達も同じだっただろう。

「喜びの都市」の、喜ばしくない歓迎。

「ざっけんなインドぁー!」

友人の1人が誰にともなく叫んだが、

その声は、雑踏の喧騒に瞬く間に掻き消されるのだった。

この旅のその後の顛末は、また別の時に披露することにして、

ひとまずは筆を置くことにしよう。

おっしまい。

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