失聴経験 12デシベルダウン

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福祉センターの相談員を通じて「全日本難聴者・中途失聴者団体連合会」青年部長とお会いした。現在日本の聴覚障害基準を福祉先進国並みにしようと言う活動を「デシベルダウン」を考えている人が京都にいるらしく、それが上手く機能するば東京でもサポートするらしい。

青年部長には沢山のことを教わった。聞こえない世界はとても複雑で色々な考えの人がいるらしい。(つまり健常者の世界と何ら変わりはないと言うことだ。)「ろう者」と「難聴者」では求めている物が違うし、またそれぞれの立場でも色々な考え方が存在している。

同じ難聴者でも「デシベルダウン」に積極的な人もいるし、消極的ない人も無関心の人もいる。例えば私のような中途失聴者・難聴者の場合、失聴した時の度合いによって考え方に影響が出るのかも知れない。軽度の比較的健聴に近い人は、聞こえない不便さを感じつつもその障害について自分から言い出したくない方もいるかも知れない。私の場合は中度でそれを隠そう思っても隠し切れないし(笑)障害者基準のボーダーラインに位置するので、自分の立場を社会的に保障して欲しいと思っている。失聴時に始めから障害者手帳を保持した方にもそれなりの苦悩があると思う。

ここで考えて欲しいのはなぜ軽度の場合「人に打ち明けたくない。」と思ってしまうのだろう?障害者手帳を取得する時に気持ちに葛藤が生まれるのだろうか?

「耳が悪いことは可哀想なのだろうか?」

視力の低下は日常的に「最近目が悪くなっちゃった。」とか「今0.1と0.7だよ。近視と乱視なんだ。」と言うのに聴力の低下に関しては、このような会話はなされない。大体にして「デシベル」についてどれだけの人が知っているのだろう?

なぜ「私は伝音性(または感音性・混合性)難聴なんだ。」と気軽に言えないのだろう?

「身体障害者」って可哀想と思われなくてはいけない存在なのだろうか?

こう言う考え方は誤解から生まれていると思う。日本は物事全般に対して対応が遅い国だが、そろそろいい加減にそれを改善した方が良いのではないだろうか?

「聴覚障害者基準の見直しについて」私の考えは、軽度・中度・手帳保持者の皆が共通に抱えている不便さを社会に提言して行きたい。現行では35.8万人しかいないはずの聴覚障害者が600万人もいると証明できれば、聴覚障害者の存在を広く社会にアピールできる。聴覚障害者に対する理解が現在よりも深まり、手話も今よりも社会に浸透するかも知れない。

福祉先進国並みに基準が改正され、障害者手帳を取得する人数が単に増えただけでは本当の意味でのバリアフリーには繋がらない。聴覚障害者が抱えている日常における困難点を1つずつ解決に繋げて行きたい。

【解説3】 福祉先進国の事情  当時の解説です。

はじめに  国の情勢は可変的なので概念として参考程度にご覧下さい。

①WHO(世界保健機関)の基準

25~40dB   軽度難聴

40~40dB 中度難聴

70~90dB  高度難聴

 90dB以上  重度難聴

② 日本

両耳70dB以上。または片耳90dB以上・片耳50dB以上。または語音明瞭度検査50%以下の難聴者に対し、身体障害者手帳を交付。

つまり補聴器は身体障害者手帳取得者が対象になる。

※国から福祉的に与えられるやり方。つまり障害者手帳制度を採用している国は日本と韓国くらいである。日本は国際基準の高度~重度の難聴者にしか補聴器を給付していない。

③ 諸外国の事情

アメリカやヨーロッパでは障害者手帳制度はなく、dBを区分して等級判定をしない。つまりdBを基準とした保障ではない。

2001年のシドニーにおける国際難聴者会議等に参加した方の話では、手話を使って会話をしているの難聴者はほとんどが日本人だそうだ。これは他国の難聴者は補聴器を活用して会話をしている難聴者が多いと言うことだ。これは日本と欧米の難聴者のレベルに差があることが分かる。

欧米諸国はどのような保障をしているのだろうか?

アメリカ 

身体障害福祉と言う概念がない。個々人が掛け金を支払う健康医療保険制度で補助を受ける。掛け金を支払えない貧困世帯は給付を受けられない。

ヨーロッパ

聴力レベルではなく生活状況を個別に診断し、国の保障制度によって給付が受けられる(一般的に30dB以上)

諸外国の補聴器給付状況

ドイツ

補聴器は医療用具。医療ケアの一部として健康保険制度に基づいて給付される。給付の判定は耳鼻科医が行う。聴力レベル(デシベル)に捕らわれない。申請から給付まで約2週間。自費購入は稀である。

デンマーク 

保険ではない何らかの制度で購入費の全額または一部を政府が給付する。デンマークでは20dB以上を対象とし、補聴器の適合はヒアリングセンターで実施される。予約から受診まで3~12か月かかる。

イギリス

全体の80%は医療保険制度による給付である。不要になった補聴器はリサイクル・修理される。申請から交付まで半年から1年かかる。

オランダ

購入価格の90%を支給。デシベルに拘らず職種によりコミュニケーション上必要なら支給。

フランス

保険制度で支給され購入価格の20%を支給。

イタリア

基本的に65歳未満で50dB以上の者に対し、小売り価格の30~70%を支給。

まとめ

欧米では障害者手帳制度ではなく、医師の判断等で健康または医療保険制度で支給されている。いずれの国もデシベルに拘っておらず、考えの根本には障害を持つものを「あくまでも社会参加させる為に国が支援すると言う発想」である。

日本人はどちらかと言うと「健常者が障害者を養ってあげなくてはならない。」と言う考え方をしている。障害を持つ者の位置づけが欧米とは全く異なっている。この根底にある考え方を変えなければならないのだが、それは単に「国が」「社会が」「健常者が」と言うのではなく、批判を恐れずに書けば「障害者自身の意識」も含まれる。

「デシベルダウン」の本当の意味は、ただ単純に障害者基準を改めても意味をなさない。しかし障害者手帳制度の廃止となると他の障害を持つ方との連携等なかなか時間を要する取り組みとなる。国もスムーズに対応するのは難しいだろう。

まずは600万人の聴覚障害者の皆さん、我々の存在を広く社会にアピールして行きましょう。

「聞こえないことを自分の個性と堂々と言える」そんな環境を築いて行きましょう!!


【あとがき】

聞こえなくなった15年前に書いたもの(正確にはその年から書いたもの)に再度焦点を当てて書き直すのは、なかなかシンドイ作業でした。それでも書いている内に「こんな自分の経験でもどなたかのお役に少しでも立てたら嬉しい」と思いました。画面の向こうにいるであろう「聞こえなくなって辛い方」や「虐待を受けたことで生きにくい方」へ向けて伝えるつもりで書きました。もちろん聴覚障害や虐待に今まで関心のなかった方にも何か感じて頂ければとてもありがたいです。

当時東京で「デシベルダウン」のことを話してもほとんどの難聴の方が「何それ?」と言う状態でした。「障害者手帳を持っていないレベルでも聞こえなくて辛い」と言ってもほとんどの人から理解を得られませんでした。そして同じ手帳がなくて苦しいけれどその「声を表に出すのが怖くて言えない。」と言う方も多くいらっしゃいました。確かに存在はあるのに、「当事者の声を顕在化するのが難しい」と思っていました。

私自身の自己主張が当時は突飛であった為「聞こえるくせに補聴器をして聞こえないふりをしている。」などの無視や嫌がらせも一通り経験したことは、今となっては痛々しくも懐かしい思い出です。

数年間はデシベルダウンの賛同はほとんど得られず一部の理解のある方に支えられる形でした。京都にある「軽・中度難聴者のグループ」と連絡を取り、そこで一緒にリーフレットを作成したものを三田(田町)の障害者会館にこっそり置いたり関心や理解ある方に直接お渡ししたりほぼ一人で活動していました。

私の千葉への転居が決まった年に「東京でも軽中度難聴の方への活動を本格的にするので中心になってくれませんか?」とお誘いを頂きました。

…転居と共に活動からも退き千葉では活動とは無縁の生活をしていました。


2013年2月 田町駅で用事があった際に三田の障害者会館に近かったので懐かしくなり会館へ足を運びました。そこにあった資料を見た時に身体障害者手帳の基準に達しない方の文章を見つけました。障害者手帳に該当しない方への取り組みが活動の一環となされていることを知り、嬉しさが込み上げて来ました。

失聴経験5③の内容で触れたように補聴器の購入に関し自治体独自で障害者手帳に該当しない方への補助があったりと、この15年の内に当事者意識も国の取り組みも良い方に変わったと実感しております。

「頭がおかしい」とか「東京(にある団体を)を潰す気か」と言われてもめげずに自己主張したあの時の自分…本当に良く頑張ったなぁと思いましたし、仮に途中で投げ出しても(または寿命がきて死んでも)それが他の人にも必要なことだったら、いずれは誰かが自分の意思(遺志)を継いでくれることもあると学びました。

≪軽中度難聴者について≫

例えば数値では30dBしかも片耳だけが軽度の難聴の方であっても、それを周りに伝えたり耳鼻科へ行こうと決心するにはとても心の中で葛藤があるそうです。 お仕事にも差し支えがあり精神的にも大きな負担を感じられると以前お会いした方に教えてもらいました。

ご自分の中で「なんとなく聞き取りにくい。」「最近聞き返しが多くなった。」「人の性格で判断するのでははなく、相手の声が聞き取りにくくその人を苦手だと思ってしまう。」と言うことがある場合、軽・中度難聴の可能性があります。

その時に感じる誰に相談したら良いのか分からない不安・耳鼻科へ行くことをためらう葛藤は、あなたが人間的に弱いのではなく、どんな人でも直面すれば感じてしまうことですので、どうかご自分を責めないように「その不安や葛藤を認めてあげて下さい。」

私が当時お世話になった京都にある軽・中度難聴のグループ「かものはし」は現在も活動を続けられています。ネットでの発信もされているそうですが、リアルなお付き合いを大切に活動されているようです。

もし「耳が聞こえないかも知れない不安を誰にも打ち明けられないけど、同じ立場の方にお会いしてみたい」と言う方がおられましたら代表の方に問い合わせをしても良いと思います。(この点、許可を得ていませんがとても優しい方なので大丈夫だと判断して記載しました。)もしくは私にご連絡を頂いて私経由で代表の方にお伝えすることも可能です。

≪一人の補聴器ユーザーとして思うこと≫

「耳かけ型」は現在カラーバリエーションが多いのですが、「耳穴型」は依然として肌色しかありません。過去にお世話になった補聴器店で

「どうして耳穴は肌色しかないのですか?」と聞いた所「よく分からないけど、そうですよね。」と言われました。

素人意見で申し訳ないのですが、素材にカラーの塗料を混ぜれば耳かけ型のように着色できるのではないか?と単純に思っています。無責任な発言で申し訳ございません。

ついでに言わせて頂きたいのは

「日本の物作りの技術力を本気で駆使すれば高性能で安価な補聴器の製造も可能なのではないか?」と聞こえなくなってから常々思っております。

(現在主流な海外メーカーも日本の拠点で製作されていますが、あくまでもメーカー本社が海外または日本にあるかどうかで話を進めて行きます。)

補聴器のイメージを向上させより身近な物だと認識し直すと共に、潜在的なユーザー数つまり現行の法律では約36万人しか認められていないユーザーが実は600万人いるとなれば市場の開拓は充分に見込める分野です。社会の傾向として高齢化社会ですからそう言う視点からも伸びしろのある分野です。

ユーザーを増やすことで今よりもっと安価な補聴器が市場に出回り企業間で価格競争など活発になることで当事者が補聴器を手にするハードルも低くなり、結果として補聴器が多くの人に使われれば自然とイメージも良くなるはずです。

カラーのバリエーションはその為の1つの着眼点でしかありません。最近の傾向としては汗に強い製品の開発もとてもありがたいです。

日本の企業が積極的に参入しない理由は何なのか?と漠然と無い頭で考えても分からないので、ここに書き記しておきます。

ハイクオリティの安価なメイドインジャパンの補聴器が開発されましたら「私はいつでも海外メーカーから日本のメーカーに乗り換えます」と、ここに宣言しておきます。

≪全然使えない無駄知識をあなたに♪≫

耳穴型の補聴器は肌色しかないので、2代目(右側の水色・エメラルドグリーン)と昨年死期を迎えたばかりの3代目(左側のオレンジ・ピンク)のペイントについて書きます。状態の良い時の写真を棄ててしまい、汚れが目立っておりますがイメージとして掴んで頂ければと思います。


これらの補聴器はWIDEX社製です。最近購入したばかりのスターキー社の4代目は製品の構造上、ペイントは無理があると現在判断しており、初の肌色=スッピンデビューするかも知れません。

※まずは耳穴型の補聴器をお持ちの方でペイントの真似をされる方は100%ご自分の自己責任で判断して下さい。ご自身でペイントをされることによる故障・修理の可能性は全てご自分で負って下さい。

・ペイントをしようと相談した当時の補聴器店は認定補聴器専門店ではありませんでした。以前書いた記事に「認定補聴器専門店で購入して下さい。」と書きましたので矛盾しております。恐らくですが認定補聴器専門店で「耳穴型の補聴器にペイントをしたい」と言ったら殆ど断られるかも知れません。理由は故障に繋がる可能性が出てくるからです。

私が相談した方は長年の補聴器販売実績があり、そう言う資格を持っていなかったからこそ発想が柔軟だったとも言い替えられます。

ペイントに使用しているもの

・マニキュア ネイルシール トップコート

補聴器の構造上、ネイルを塗ってはいけない場所があります。補聴器の構造はお店の方がペイントしても良いと言うのであればお店の方に教えてもらうか、お店に反対されて自己責任でどうしてもやりたいのであれば説明書を熟読してからが良いでしょう。

2代目で失敗したのはプログラム切り替えボタンをマニキュアで固めてしまいプログラムが切り替えられなくなりました。

ペイントは経年劣化します。トップコートを塗っても汗でネイルシールも下地にしたネイルもはがれたり黄ばんだりして汚くなります。またそのはがれたネイルシールやネイルの破片がマイクなどに入らないように入念な手入れ・チェックも自己責任で自己管理して下さい。

例えばペイントを依頼されても一切お受けしておりません。なぜなら経年劣化によるペイントの剥がれに対する日常的な管理まで責任が負えないので故障のリスクも負えないからです。

アイデアは真似して頂いて全く構いませんがペイントに伴うリスクは100%ご自分で負って下さい。

・ネイルを多くつけすぎて変な所に入る覚悟

・固めてはいけない所を固めて失敗する覚悟

・ペイント素材の経年劣化による故障の覚悟

・ペイントをしたことによって発生する修理の覚悟…これら全てをご自分で負える方のみご参考になさって下さいね。



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虐待のことを語らずに私の失聴経験は終われない

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