音速の壁

東大目指し、はや三浪。

依然高止まりの親の期待とは裏腹に、低空飛行の模試の結果。

願書を請求する時期になってふと思う。

「まだ東大を目指すべきか?」

なんとなく付き合って、はや8年。

ここ数年はもはや惰性。ちっともトキメかない待ち合わせ中に、ふと思う。

「別れてもっと良いヒトを探すべきか?」

これぞと見込んだパチンコの台。もうそろそろ当たる筈。当たって欲しい。てか当たってください。5万が溶け、手元の1万を眺めて、ふと思う。

「ここで引くべきか?」

このような時、人はこう思う。

「いや、ここでやめてたまるか」

ここで止めてしまったら、これまでつぎ込んだ時間と金、汗と涙が水の泡。

だから、うまく行く可能性が少しでもあれば続けるのだ、と。

そうして数ある選択肢に目をつぶり、足元の細く険しい道を進み続け、転んだり足を踏み外したりして、結局傷口を広げてしまうのだ。

このように、これまでかけたコストを回収しようとし、ほぼ失敗するとわかっている選択肢を選んでしまうことを、「コンコルド効果」と言う。

コンコルド。

それは、かつて存在した、超音速の旅客機。

巡航速度は時速2160kmのマッハ2.04。

通常の飛行機の時速が900kmくらいだから、2倍以上の速さ。

次世代旅客機の期待を背負い、導入が開始されたのは、今からなんと40年近く前の1976年。

だが、2003年には、以下理由により退役の憂き目となった。

・普通の旅客機より、2倍も長い滑走路が必要だった。

・燃費が悪く、太平洋を横断しての航行ができなかった。

・音速飛行に適した細長い機体だったので、乗客の定員が100人程度しかなかった。

これらの理由で不採算だったのに加え、このコンコルドの飛行により発生する「ある現象」が環境に与えるダメージも、その退役を後押しした。

ソニックブーム。

超音速で移動する物体の先端では、そこで発生した音が前に進むより早く物体が進んでしまうので、音がミルフィーユのようにどんどん重なっていく。

音は空気の振動なので、幾重にも重なったこの「音のミルフィーユ」が衝撃波として伝わるのが「ソニックブーム」である。

地上からは凄まじい爆発音として観測され、衝撃で窓ガラスが割れることもあったとか。

問題山積のコンコルド。

だが、一番の問題点は、これら問題により不採算なのが開発時に明らかだったにも関わらず、開発を続けてしまったことだろう。

すでに巨額の開発費用をつぎ込んでしまっていたがために、途中でプロジェクトを中止することができなかったのだ。

止まっているものを動かす

動いているものを動かし続ける

動いているものを止める

速度を一定と考えた時、「動いているものを止める」のが一番大変そうだ。

「動いているもの」が大きく、重く、速度が早く、そして色んな人の期待や思惑を背負っていればなおさら大変。

・何か始める時に、どのような条件の時に中止するかの「出口戦略」を考えておく

・中間地点で振り返る時、それまでかかったコストは一旦白紙に戻して考える「ゼロベース思考」を徹底する

などが、コンコルドの事例からの学びだろう。

一歩を踏み出す勇気は確かに凄い。

でも、

責任を一手に引き受けて、撤退の決断をする勇気は、もっと凄い。

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