桜が舞うと、母のことを思い出します
「これが最後の海外旅行になるね。」
母は、そう言っていた。
19歳の冬。
その、3か月後だった。
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「とうちゃんの夢、決めたよ。」
お風呂の天井を見上げて、6歳の息子に話した。
30代の父となり、「将来の夢=職業」に、違和感があった。
「やっぱり、家族でたくさん海外旅行に行きたい。」
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喫茶店を営んでいた両親は、休日もなく働いていた。
物静かな母は、趣味もなく、友達と遊ぶこともない中、数年に一度、私と姉を海外旅行に連れて行ってくれた。
「あなたたちと海外旅行に行きたい。その目標で、毎日を生きていける。少しづつ、頑張って貯金するね。」
公言通り、まさに母の「生きがい」だった。
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19歳の冬。
イタリア旅行の身支度をしている時だった。
「これが最後の海外旅行になるね。」
と、母は言った。
知らなかったし、知らないフリをした。
3か月後。
母は「ちょっと体調が悪い」「すぐ帰るね」と、入院した。
母の笑顔を見たのは、その日が最後だった。
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「で、とうちゃんはなんで家族で海外旅行に行きたいの?」
長男は、目をキラキラさせた。
30代の父となり、「将来の夢=職業」に、違和感があった。
何を対価にお金を得て、それをどんな理由で使いたいのか。
夢って、「生き方」のことなんだと思った。
「一番好きな奴らと、一緒に感動したい。一番楽しくて、一番嬉しかった思い出なんだ。」
ほうほう、とそうたろうは納得したように続けた。
「とうちゃん、行きたい国があるの?」
思い浮かぶのは全て、母と姉と行った場所だった。
「伝えたい。」心が、そう言っている。
きっと、こうやって続いてくんだよな、母ちゃん。
あなたが少しづつ、貯めてくれたのは、お金でも、旅行でもなく、想いだったんだよな。
カタチがないから、世代を超えてつながっていけるんだよな。
「つながっていく」
これが、「家族」ってことなんだろうな。
家族って、守るものじゃなく、「伝えていくもの」なんだろうな。
最近、そう思う。
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冬が終わり、桜が舞うと、思い出す。
温かかった、あなたのことを。
その度に膨らむ「ありがとう」は、
自分の家族に、返していきます。
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