『ペ●スノート』:Page 3「混沌」
短い時間で夕食を済まし、剣(ないと)はすぐに自分の部屋に戻った。虹空(にあ)は、自前のノートパソコンで何かを見ているようだった。
この時点で剣は内心かなりホッとしていた。何故なら、ほんの数分目を離しただけでも虹空は奇妙な行動をとっていることが多いからである。先週、同じように虹空が剣の元へ訪れた際、少し用を足しに席を離れたところ、戻った時には部屋中に青いペンキがぶちまかれていて、ペンキまみれの部屋の真ん中で虹空はイカの刺身を食していたのだ。また、先月来た時には剣の自室を勝手に原子力発電所に改造していたし、先々月には小型のブラックホールを開発したせいで、部屋のありとあらゆるモノが吸い込まれ、重力によってペシャンコになるというとんでもない事態になったこともあった。そんな虹空が特にこれといったこともせず、大人しくしていること自体がまさに奇跡なのである。ペンキ屋さんのペンギンさん。
ここでふと、剣はあることを思いついた。
「ペ●スノートのこと……虹空に聞いたらどんな反応するんだろう。」と。
剣は、早速、学校帰りに拾った冊子と謎の機械:ペ⚫︎スノートについて虹空に聞こうとした。
「あのさ、オレ帰る途中に変な機械拾ってさ......」
「あ、ごめんちょっと待って。今ボクたん読み物読んでるのん。」
口調にやや腹が立ったが、それよりも、ただでさえ集中力といったものが無い虹空が何かに集中していること自体かなり珍しいので、何を読んでいるのかが気になった。
「・・・・何読んでるの?」
「恋愛小説。」
「・・・・・・・なんて言うタイトルなの?」
「『ほもたろう』!」
虹空は何故そんなものを読んでいるのか。そして、一体どのようにして見つけたのか、ますます謎が深まるばかりだ。それよりも、そんな如何わしい言葉を何の恥ずかしげもなく発した彼の感性とやらを疑った。
どうやらこの『ほもたろう』というモノは、インターネット上で小説家を目指す方々によって書かれた様々な小説が掲載されているサイトで公開されているのらしい。アニメ化までされた人気作品もあるようだが、恐らくこの『ほもたろう』といい、7割くらいは中学生か高校生くらいの厨二病(ボーイズ・アンド・ガールズ)が面白半分(ジョーク)で書いたものとしか思えないレベルだと、全く知識のない剣ですらも察してしまった。いや、この『ほもたろう』についてはそれ以下だろう。
しかし、そんなことはどうでもよいのだ。こちらとしては早くペ⚫︎スノートについて聞きたいのだ。
「それはさておいてさー。この機械のことなんだけど・・・・」
聞き出そうとした、まさにその時である。
「ククク・・・・それをとても気に入っているようだなァ・・・・」
背後から不気味な声がしてきた!剣は後ろを振り返った。すると、まぁびっくり!黒いフードを纏った髑髏が目の前にいるではないか!しかも片手には鎌!命を刈り取る形をしてやがるぜ!
「おあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
剣は、この世の者とは思えない恐ろしい化け物を目の前にして、恐怖のあまり絶叫とともに、腰を抜かしてしまった。
「やむちゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
虹空も釣られて叫んだ。ちなみに、虹空には化物の姿は見えていない。
「ケケケ、そんなに驚くこたァねェだろ?オレ様はお前の持ってるノートの持ち主、死神のリ・ユークだ。」
死神は、嘲笑っていた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!うわっうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
剣はまだ、パニックに陥っていた。ただ机の下に隠れ、ひたすら叫んでいるのだ。
「ごはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
虹空は発狂しながらノートパソコンを床に何度も叩きつけた。尚、虹空には死神の姿は見えていない。
「オ、オイ。そこまで驚くことはねェだろ??・・・・てか、もう片方さんよォ、おめェ見えてねェくせになんでパニクってんだァ???」
「スピンナトップ、スピンスピンスピンスピンスピンスピンスピンスピンスピンスピンスピンスピンスピンスピンスピンスピンスピンスピン......」
剣は机の下に隠れたまま、地球儀を凝視しながら回し始めた。巨大な恐怖のあまり、とうとう頭がおかしくなってしまった。
「テンシンハンッ!!!テンシンハンッ!!!テンシンハンッ!!!!!!」
虹空は床に目掛けてぶん投げたノートパソコンを、今度はトンカチで何度も何度も強く打ち続けた。こいつは、元々頭がおかしい。そして何度も繰り返すが彼には死神の姿は見えていない。
「お、落ち着いてくれ!頼むから!何もしねェから!」
この混沌(カオス)と狂気が支配する空気に死神はついに耐えられなくなってしまった。しかし、死神の願いは、混沌(カオス)の使者と化した二人には全く伝わらず、ただ虚しく響くだけであった。この喧騒は、しばらくおさまることはないだろう・・・・そう悟った死神は、為す術もなく、その場で立ち尽くしているのであった。
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