自殺企図から始まる うつ病 との出会い4
NクリニックのN医師との診察に入った私は、涙が止まらずにただただ泣いていた。
そしてまるで、子供が泣きじゃくるような泣き方になる。
なぜだかわからない、悲しみがあふれてきたのだ。
嗚咽が診察室内に響いた。
診察に入ると、
まずは言語機能や、四肢に異常がないの確認だった。
‐自分の名前や住所、年齢、ここまで何できたかを話す。医師が紙に書いた言葉を読む。
-ベッドに寝かせられ足や手の指の感覚の有無、片足立ちや屈伸など運動に影響がないか調べる。
-視野が欠けていないか、目が見えているか、耳は聞こえるか、味覚の有無。
N医師によると、
自殺に失敗したり、幸運にも首を吊った状態で発見されると後遺症で苦しむ事が多いとのことだった。
知能障害や言語障害、運動機能障害が残ったり、最悪の状態は植物状態になるということだ。
酸欠により脳細胞が死んでしまい、生命活動に致命的なダメージを与えるらしい。
逆を返せばそれだけ首吊りが「死ねる自殺行為」といえるだろう。
私は不運にも(このときは幸運ではなかった)何も障害がなく済んだ。
傷といえば
-首から耳の後ろにかけての紫の傷痕
-紐が切れて落下した時の手の甲の打撲
-落下して痙攣した時の腕の擦り傷
の3つ。
あと一つ、嚥下(えんげ)の痛みだった。
唾を飲むと喉に激痛が走った。
自殺を試みた際に、私の首は55kgの私を1点で支えていたのだ。
気管、頸動脈と同時に食道もつぶれて、炎症が起きたのだろうとのこと。
首の傷痕と同じく、しばらくの間食事のたびにこの自殺を思い出すきっかけとなる。
一通り診察が終わるとN医師は、諭すようにこう言った。
死んでしまっては家族や恋人がどう思う?
あなたには50年以上生きることのできる体があるんだ。
今回、死ぬことができなかったということは、まだ死ぬのは早いと神様が判断したんだよ。
言い方は悪いが、首吊りは発見されなければ90%以上の確率で死ぬことができる。
ただし、首吊りに失敗して一生を植物状態で過ごす人もたくさんいる。
今まで私も何人もそういった人を見てきた。
でもね、首吊りしたあなたは五体満足の状態でここで生きている。
この状態がどういうことか自分で考えてみるといい。
いいですか、この状態は間違ってもあなたが起こしたのではないよ。
あなたがかかっている病気がそうさせたんですよ。間違ってはいけないからね。
と。
この自殺を企て、実際に自殺をさせてしまう病気こそが「うつ病」だった。
そして、私は初めての精神科を紹介されることになる。
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