高木教育センターのありふれた日々(20)

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  デキの悪い生徒と賢い生徒の違いはいろいろあるが、一番大きな違いはデキの悪い生徒は時間がモノサシで、賢い生徒はモノサシで勉強を測ることは有名。私の塾でも、塾を休むと

「代わりの授業をやってもらえますか」

 という問い合わせがよくある。集団指導ではお断りしている。単価が高い個人指導はサービスで補講をしているが、全ての欠席に対応していたら倍の授業時間の確保が必要になるので物理的に不可能な話。

  この「代わりの授業」と言う話は、ほとんどデキの悪い生徒から出てくる。学力が勉強時間に比例していると勘違いしてみえるのだ。1時間や2時間の代わりの授業では何も分からないのに。

 悪質な場合は、集団指導を意図的に欠席して個人で代わりの授業を受けようとした子もいた。こちらは、集団指導の月謝で個人指導を受けようとした金銭上の理由だ。いずれにせよ、時間やお金で学力を見ているわけだが、愚かと言わざるをえない。

百九十四章

「良い塾にしかできないハッピー授業」(2)

 

  こんな生徒がいた頃は、代わりの授業などできないわけだ。今は、そんな生徒がいないので個人指導では欠席された場合の補講をできる限り実施している。サービスをすると、

「じゃ、いつでも休んでいいんだ」

  となるデキの悪い相手には出来ないシステムだ。

 

  通信添削でも、本当は「自分の使用しているテキスト」の添削をして欲しいはずなので、私はそうしている。しかし、教材は何でもいいというシステムにするとデキの悪い生徒は

「じゃ、この宿題をぜんぶやって!」

 となるのだ。だから、「進研ゼミ」も「Z会」も大手はすべて問題を指定して、その添削しかしない。何でもいいとすると、指導できるレベルの添削者を見つけるのも不可能に近いし。

  私の受講生はほとんどが、京都大学や旧帝、国立大「医学部」の受験生だから、そんな愚かな通信生がいないから「何でも受け付ける」「質問は無制限」という理想的なシステムが可能なわけだ。

 自業自得だが、デキの悪い生徒には最高のサービスは提供できない。質の悪い体育会系の講師を当てて、カラッポの教室で、決まった教材を用いて、一方的に話す。宿題などの質問はうけつけない。そうなりがちだ。

 その一方で、賢い子が集まると、優秀な講師をあて、問題集や参考書を設置した教室で、教材は相手の希望に合わせて、質問に答えながら授業を進められる。宿題の代行を求めてこないので、質問も無制限で心配要らない。

 

「めんどうくさいから、先生にやってもらおう」

 

 そういう態度が教師や講師に

「あいつには最低の学習環境を提供するだけでいい」

 と思わせるのだ。

 甲子園に出られるほど頑張る高校には雨天練習場があると聞いたことがある。私立高校だが。しかし、草野球ならそこらの空き地で十分というのに似ている。

 

百九十五章

「良い塾にしかできないハッピー授業」(3)

 

 今年で、当塾は設立33年目だ。開設時にあったライバル塾は1つも生き残っていない。目の前でいくつも塾が閉鎖されていくのを見ていて危機感を持った。

「どうしてつぶれていくのだ」

 これは簡単で、

「合格の実績があがらない」

から。特に、川越、桑名、四日市高校に合格したい子たちは競争が激しい。いなべ総合や桑名西は志願する子が少ないので、定員割れする年があると生徒は

「名前を書けば合格する」

 とタカをくくる。で、長年受験指導を長く続けると進学3校に合格する生徒の学力や性格がどういうものかよく分かってくる。

 言うまでもなく

「真面目で高学力」

 である生徒だ。

 たとえば、

「学校で80点とっているオレ様は川越は楽勝ですよね」

 と生徒が言う。私は無理だと思う。学校のテストは入試とレベルが違うし、出題傾向も違う。90点以上などザラにいる。入試は順位だ。地元の北勢中学校や、東員第二中学校では、四日市高校は学年で1人、桑名高校は6人、川越高校は7人程度だろうか。上位の2割ほどに入っていないと合格できない。

 ところが、10年ほど前から生徒も保護者もおかしくなってきた。モンスターペアレントが世間を席巻し始めた頃だ。この事実を口にすることはまかりならん状態になってきた。

 それどころか、自分の学力順位さえ教えてもらえなくなってきた。そして、昨年(2015)最大のというか唯一の業者テストの「三進連」が倒産した。業者テストの追放、偏差値追放のせいだ。

 つまり、ここ「いなべ市」の中学三年生は自分が上位の2割に入っているかも分からず、他校の生徒との学力比較もできる目隠し状態で受験を迎えるしかなくなった。

 これが、学校の先生の目指してきた理想の状態なのは分かる。

「助け合い」「愛」「絆」

 が実現できたわけだ。表面上。しかし、合格実績は激落ちだ。私の同級生は四日市高校に10名合格した。

 塾講師も難しい状態に置かれた。本当のことを口にすると激怒する保護者が増えてきた。

「学校で、いつも80点以上とっているのに桑高が無理って、ナンダ!」

 と言われる。それで、多くの塾講師は

「それで大丈夫ですよ。一緒に頑張りましょう」

 などと、無責任なことを言う。もちろん、合格するわけないので合格実績は上がらない。私の塾の一期生は、もう48歳だ。小さな町なので、その後のこともよく知っている。

 暴走族やヤクザまがいになった子もいるし、ニートや非正規で苦しんでいる子もいる。早い時期に

「そんな態度では生きていけない」

 と教えてやるべきなのに、大人たちが生徒に媚びている。校内暴力やイジメで世間が騒ぎ始めた頃から

「あんな奴らがどうなろうが、俺たちに関係ない」

 と思う人が多くなった。いや、ほとんどの大人がそう思っている。中学生や高校生でもナイフを持って、人を殺す世の中だ。関わらないのが一番。

 世も末じゃ。

 私は子供を抱えて倒産するわけにはいかないので、常識のある素行の良い真面目な生徒だけを相手にすることにした。お陰で30年以上生き残れた。もちろん、不良や非行少女たちからは嫌われている。

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