ど素人 高田支配人の現場改革 7 鬼の目に涙

 

・鬼の目に涙

 

 仕事の鬼、という表現が適切かどうか分からないが、すでに50歳を超えているベテランであるIマネージャーは、どんなに仕事が大変で体がきつくとも、決して弱音をはかなかった。

宴会当日は大学生や高校生の若いアルバイトを使っていたが、こうした若いバイトたちもIマネージャーにいつも仕事が遅い、配慮が足りない、等の罵声を浴びせられながら、スパルタ式に現場でたたき上げられていた。

そのくせ、バイト学生の面倒見が良くて 親分肌なのだろう、仕事以外にも学生たちのこまごまとして悩み事に相談を良く受けていて、平日でも学生たちが気軽に遊びに来ては、無料奉仕で仕事を手伝って帰っていったりした。

もうこの式場で15年以上もバンケットを仕切ってきたIマネージャーは、この式場の“影のボス”とも呼ばれていた。

 

もともとこのB結婚式場は、現社長の母親が女将として活躍して地元で多くの顧客を呼び込んで成功し、その母親と共に忙しいバンケットという裏方の仕事を支えてきたのがIマネージャーだった。そのうち 女将さんが病気で倒れ、地元のお得意さんとの信頼のパイプはこのIマネージャーが引き継いできたといっても良かった。

 確かに高田支配人にとっては、こうしたタイプのベテラン女性社員と面と向かうのは初めての経験だった。しかも、能力も経験もすべてかなわない相手だった。つっけんどんに見える態度が、最近は嫌がらせにすら感じられ、自分に早く此処から去ってほしい、とでも言っているかのように感じられて仕方が無かった。

 

 それでも A副社長の指導に最後の望みをかけて 宴会に臨んだ。

「始めまして。支配人の高田と申します。お料理のお味はいかがですか。?」

なんと切り出していいかわからず、おもむろに名刺を差し出すと

「いつ利用しても気分がいいね、此処は」

地元の農協の定期総会が終わって宴会が始めると 高田は早速こうして担当の理事長に

挨拶したが、もう何年も連続して総会を此処でやってもらっているらしく、Iマネージャーも顔見知りらしかった。

「君はここが地元じゃないのかね。千葉のナマリがないね。」

高田はこうしたざっくばらんなやり取りになんと言っていいか分からないので

とにかくIマネージャーを連れてきて挨拶してもらうことにした。

 

 

「あら、理事長さんじゃないですか。今年の田植えのときは、また機械かしてくださいね。」

(機械、、、?田植え、、、?)

すっかり溶け込んでしまったIマネージャーを理事長の横に座らせると、Iさんにもグラスを持たせてビールを注いだ。

 

「今日は私のおごりでIさんにもぐいぐい飲んでもらいます。」

すっかり理事長と話が盛り上がってしまったIマネージャーは 高田や理事長の注ぐビールをぐいぐい飲み干していった。底なしに強かった。5杯くらい一気飲みをやっても少しだけ顔を赤くする程度のIマネージャーは、高田にもグラスを渡した。

 

Iさん、今日は僕が家に送ってゆくので、Iさんが代わりに飲んでください。」

此処で少し気分をよくしたのか、Iマネージャーは理事長に高田のことを話し始めた。

「ねー 理事長さん 聞いてくださいよ。この高田支配人って ホンとボンボンで世間知らずで困ってるんですよ、、。横で見ていていつも心配で心配で仕方が無くて目が話せないんですよ、、。」

(へ?心配だったのか、、?)

Iマネージャーが私の悪口を酒の肴に理事長と1時間以上盛り上がって相当良いもまわっていい気分になった頃

「高田君、いいかい、Iちゃんは私の大切な人なのよ、大切に大切にして頂戴!」

もう酔った勢いでそれ以降は何を言っているか聞き取れなかったが 理事長もIさんも相当気分が良かったのだろう、最後に玄関までお送り知るのに3人で肩組しながら理事長を代行の車に乗せた。

 

 その後有無を言わさず、Iマネージャーをそのまま高田の車に乗せると、山奥に有る自宅まで送っていった。

 

「支配人って少し見直したわ、、、」

「でも さっき理事長にさんざ悪口言ってたじゃないですか。」

「馬鹿ね支配人って、だから女性たちに嫌われるのよ、あれはね、気に入っているって事なの。」

「へ?僕のこと、、、、今まで避けてたくせに。」

「何いってんのよ、避けてたのは支配人のほうでしょ」

自分の方が避けていた、、、そういえば同じようなことをA副社長にも言われた気がした。

山奥の坂の途中にあるその家は しっかり教わらなければそのまま通り過ぎてしまうような見えずらい位置にあった。

 

 

「こんばんわ。奥様をお届けに参りました。」

前もって電話してあったようで 旦那さんがたたみ部屋から出てきて頭を下げた。

あまり話をしないご主人のようで、とにかく安全にお届けしたので帰ろうと思ったところ

「支配人 お茶が入っていますよ。ごはんも食べていってくださいな。さっきは接待でろくに食べれなかったでしょ。」

こうして Iマネージャーのご家族と夜10時もなろうとしているのに、一緒にごはんを食べることになった。

聞いてみると だんなさんはトラックの運転手をしていて夜9時以降に帰ってくるが、帰ってくると必ずビールを飲んでその後食事にするのだそうだ。

高校2年生になる息子も夜遅くまで遊びに出かけているようだった。

昔はだんなさんは農業をやっていて田んぼも沢山持っていたのだそうだが、今は人に貸していて 繁忙期に借り入れの手伝いに行く程度なのだそうだ。その時に地元の農協から刈り入れの機械を借りてくる、ということだったのだ。

 

 

「じゃ おかずはいつ作るんですか?」

「朝 会社に行く前に仕込んでおいて冷蔵庫にしまっておくんですよ」

昼は 会社で宴会のサービスと後片付け、家に帰ればだんなに食事の接待、夜11時頃に皿洗いをしてようやく12時頃に休む、朝は6時には起きて息子とだんなの朝食を作りさらに夕食のおかずを仕込んで会社に来ていたのだ。

 高田はIさんがトイレに入っている隙に、台所で皿洗いを始めた。だんなさんにビールのお酌をして挨拶をして、Iさんがトイレから出てくるときには車に乗ろうとしていた。

「明日のあさ 8時には迎えに来ますからゆっくり休んでください。」

その言葉を聞いてIさんの目から大粒の涙が流れていた。

 

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