何たって外資系

日本を代表する家電メーカーであるシャープ。一時は、「亀岡モデル」なる日本製液晶で存在感を示していたが、ついに台湾企業であるホンハイの傘下に。

これってシャープが外資系企業になることを意味している。外資系って言ってもアメリカやヨーロッパばかりではないのです。中国だったりインドだったり、アフリカの資本であっても外資系。


自身も新卒で約20年間財閥系の一部上場企業に勤めた後に、米国の電話の発明者が起こした通信会社に転職。ファイナンスとして日本法人の予算管理の担当者を経て日本のファイナンスのトップに。その後、その会社の日本における主要な事業の日本の上場企業への売却に携わり、多くの仲間たちと日本企業の傘下へ。改めて日本企業となり、そこで引き続き経理財務のトップとして会社運営と親会社経営陣との調整に追われた。そこで見にしみて感じたのは日本企業と外資系企業での行動基準の差。

簡単に言うと前者は「情」による経営で、後者は「ロジック」による経営。

10年近く「ロジック」での経営に慣れた身からすると、「情」による経営はモヤモヤしていて気持ち悪い。ということで企業統合を終えた2年後、今度も米国の医療機器メーカーの日本法人に転職。

改めて「外資系」に舞い戻ることとなった。

今回はこれからシャープの従業員が経験していくであろう「外資系」企業の特性について語ってみたいと思う。


ただしシャープについて言えば、過去から既に実質的に外資系化がジワジワと進んでいたことはあまり知られていない。例えば先の亀岡工場。ここには福島ではないが第一と第二の二つの工場があり、第一はアップルが工場設備に出資して最近まではアップルのiPhone向けの液晶を生産。また亀岡に懲りずに更に液晶パネルの大型化で韓国勢と戦おうと大金を投じた堺工場。こちらは前回のホンハイの投資交渉の決裂の際に切り離されてホンハイの郭CEOが個人でシャープと同比率で出資。既に外資系となっている。

輸出や海外生産という形で日本企業も海外との取り引きが増えている。ただし絶対的に無い経験。それは外国の経営者の下で働くということ。この場合、外国の経営者イコール外国人という単純なことではなく、先にも述べた「ロジック」による経営。


日本にある外資系企業の大部分では本社から来ている、いわゆるエクスパッドと言われる外人の数は割と少ない。理由は日本語がしゃべれる外人が少ない事。そしてコストが嵩むこと。

赤坂、六本木辺りの100平米位のマンションに100万円近く払い、社用車を買い与え、おまけに子供のインターナショナルスクールの費用まで。

マーケット、顧客が日本企業、日本人なのであるから当然だが社内の公用語も日本語である。

但し、マネージャー以上になると本社へのレポーティング、交渉が必須になるので英語が出来ないと上に上がっていくのは難しい。

ホンハイは台湾企業なので中国語になるのであろうが。

言葉なんて道具だよ。

本質的で無いと言われる人がいますが、どうでしょうか。

考えてもみてください。遠い国に多額のお金を投資して自分達の名前で商売をさせている時、そこで何が起こっているか分からないなど許されることではありません。

外資系企業に就職する際に先ずオリエンテーションで言われるのは、同僚や上司が悪いことに手を染めているのを発見したら笛を吹きなさい、という事。どういう事かと言うと、人事、法務等にチクりなさいという事。

これは島国で容易には海外に逃げられない日本とは違って、広い大陸で他国とも国境で接している所では逃走も容易。移民も多い。よって基本的には従業員の事を本当には信頼していないというか、してはいけないという文化の違いから来ていると思われる。

そう最低限のチクりの英語力が無い人間は外資系企業にとってはリスクでしかないということだ。

先の日本事業の売却の際も従業員のリストには最終学歴と共に英語力の有る無しの欄が。


当たり前の事ではあるが日本企業にとっては日本は本社がある所で、市場でもあり、海外進出を進めているとは言え日本からの撤退は考えずらい。一方で外資系企業にとっては日本は一億人というそこそこの豊かな消費者のいる市場ではあるものの、将来の人口減、高齢化を考えると魅力的な市場では無くなってきている。そして中国やインド、インドネシアなど他にも将来性のある市場があるので、割高株を投げ売するように日本から撤退を選択することも考えられる。

アメリカ人は概して中国のことを信用してないが、それでもかなりの多国籍企業がアジア・パシフィックの本社を上海に移している。また、これも驚きではあるが、外資系企業のローカル採用のCFO(最高財務責任者)の平均給与も日本よりも上海、香港のそれが上回っている。

そして外資系企業の場合、ポジションが要らなくなった場合、ポジションに見合う能力が無いと分かった場合には容赦無くプランが発動される。

誤解をするといけないので、敢えて言うと外国人が従業員に対して道具のような冷徹な見方をしている訳ではない。

これは従業員の方からして同じで、そのままその会社にいてもこれ以上の昇進、昇給が望めないとなると、別の会社へと移っていく。その意味では企業と従業員共にイーコルな立場であるとも言えるが、従業員側も年功を超えた能力の蓄積を図っていく必要がある。

先の米国系通信会社でも複数いた人事のメンバーが採用、研修、福利厚生と機能別に分けられて、上司もそれぞれの機能を担当する、シンガポール、英国、米国にいる外人になった挙句の果てにポジションが無くなってサヨウナラ。また多くの外資系企業で支払いを処理する機能を中国や東欧へ移管することが頻繁に行われた。

更に最近ではあのフォードが日本から撤退すると言う信じられない様な事も起こっている。

私自身、自分の勤める外資系企業の日本の事業の過半を売却すると言うプロセスに携わると共に、その成功によって売られる事になったのであるが、チャンスがあり本社のエグゼクティブと話した際に彼は本社は固定電話で築いたインフラを使用して携帯電話で勝負を賭ける事としアップルからiPhoneの独占販売権を取得。インフラがあるので利益率はとても高い。しかし日本には自前の回線網が無いので、それでも国内の日系、外資系企業併せてもかなり高い利益率を上げていたものの、圧倒的な利益率の差の前に売却を取り止めさせようとの力を失った。


もう一つ日本人が陥りやすい誤りがある。「日本は特殊だから。」「日本の慣習だから。」とやたらと例外を認めて貰おうとすること。当然、現地の制度や方法に従わなければならない事はある。例えば法律や官庁の手続きだ。

当たり前のことの様に思われるかもしれないが、注意すべきは、何故その様な特殊性が生まれたのか、本当に変えることができないのか、との説明を飛び越して水戸黄門の印籠の如く毎週の様に連発すること。分からないという事はリスクと取られる。特に外資系企業においては、ロジカルに説明できない事は、その背後に何かとんでも無く悪いことが隠されているのではないかとの怖れに繋がる。

ついにはそんな分からない国でビジネスをして不祥事でも起こしたら会社全体のコンプライアンスに対する取り組みを問われることになる。

これまた外資系企業特に米国系企業に入社した場合に直ぐに受けるトレーニングの一つが連邦腐敗防止法、通称FCPA。簡単に言うと、公務員に対して影響力を行使する見返りに何らかの利益供与をした場合、企業及びにそれを行った個人が罰金刑及びに懲役刑に処されるというもの。罰金の額は半端では無く懲罰的なものを含めて数百億円というのも珍しい事ではない。

米国の公務員に賄賂を送らなければ大丈夫かと言うと差に非ず。何らかの形で米国が絡んで来ると米国以外での行為も罰せられる。例えば米国の銀行の口座を利用したり、米国の通信会社のメールを利用した場合も。日本の某プラント会社がアフリカでの工事で罰金を課されている。

日本にいれば逃げられるとたかをくくっている貴方。そんなに甘くはない。

これ又、日本の某化学会社の社員が、日米犯罪人引渡条約に基づいて日本国内で拘束されて米国に送られて今も収監されていると聞く。


シャープの場合、買収される相手が台湾企業であり欧米企業とは少し違うのかもしれないが、ロジックによる経営、グローバルない普遍的なルールに基づく経営については異なる所が無いと思われる。

シャープの社員の皆さんも、今回の買収を自分達の能力を高める好機と捉え、国際社会で通用する様になって頂きたいと祈っている。



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