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16/4/9

鼻歌

Image by Olia Gozha

鼻歌を歌いながら洗濯物を干しているあいつの背中を見ながら俺は


闇雲にゲームのコントローラーを叩いている


同じ面で何度も死んでいるが


ゲームの中の銃声で 彼女の鼻歌をかき消そうとしているだけだ



幼いころからピアノを習っていた俺は


彼女の口ずさむ鼻歌の音階でさえも気になってしまう


いつもファの音がが半音ズレるのだ



彼女は最後のTシャツを干し終わり パンパンと両手で叩くと


一つに結んでいた髪を解いて 軽く頭を振る


向こうに見えるお日様が黒髪の隙間からキラキラと光り


彼女をシルエットに包み込む



俺はソファーの上にコントローラーを投げ出し

キッチンへ向かう



冷蔵庫には冷えたビールがあったはずだ



そういつも彼女は洗濯を終えると ランチと称する 女子会へと出かけ、大抵今日のような日曜日は夜まで帰ってこない


俺はそれまで自由を手にするのだ





洗濯物、夕方までに取り込んでおいてね



陽気に言い残してバタンとドアの閉まる音がする





同時にプシュっと缶を開けて 半分ほど飲み干してから ベランダの方を見やる



洗濯物が風に揺れ その向こう側のマンションの窓が開くのが見えた






携帯を手に取り いつものメールをする



『お世話になっております


片桐です


先日の会合で議題に上がりました資料ですが


本日完成致しましたので 持参致します』




もちろん資料なんてない


これは浮気相手への



もう来ても平気   という暗号メールなのだ






ピンポーン 程なくしてドアベルが鳴る



残りのビールを飲み干すと


玄関へ駆け寄る




『優実今日は早いね。。。。。』








ドアの向こうに立っていたのは彼女だった



『え。 』




思わず青ざめる俺



『優実じゃないよ 私』




冷め切った目で言い放つと そのままつかつかと中へ入ってくる彼女





『え、 出かけたんじゃなかったの?』



さらに自分を窮地に追いやるような発言をしてしまったことに気づき


沈黙する俺






もう間もなく本当に優実が来てしまう時間だ。






彼女はリビングに立ち 振り返らず言った





『優実ちゃん


来ないよ。』





『どういう意味だよ!』


声を荒げて近づくと






彼女は振り向いた




『優実ちゃん


下にいるよ』





どこからともなく救急車の音近づいてくる



俺はベランダに駆け寄り絶句した




また後ろから鼻歌が聞こえてくる

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