【episode 01】ただのプロレス好き少年が気づいたら海外でプロレスラーになっていた話
教師と生徒ということならばそれなりの結びつきはあるが、私は塾にいるといっても事務方。
ましてや本部勤務では、彼とは完全に疎遠になるのも必然。
しかし社内の組織変更に伴い、彼の母親がキャリアを見込まれ一教室の事務パートという立場から数教室を束ねる上長の秘書的な仕事を兼務することに。
上長の秘書という立場上、本部との連絡役という仕事が必然的に割り当てられることに。
そうして再び私と仕事で絡む機会が増えることになるという因果。
ただ、ここで繋がっているのは彼の母親と私だけ。
彼と私が交わる機会というのは皆無。
仲の良い教師陣からたまに状況を聞く程度で、それ以上でもそれ以下でもない関係のまま。
彼は小柄な方でスポーツと縁があるようなタイプの子ではなかった。
無事進学した私立中学では確か美術部に所属していたとか。
ただ絵を描いた記憶はほとんどないという似非美術部員。
そんな文化系の彼が、縁もゆかりもないと言ってよい「プロレス」。
しかしなぜか彼はプロレスに惹きつけられることになっていった。
あの頃のプロレスは総合格闘技ブームに追いやられていた過酷期。
新日本プロレスは迷走の暗黒時代。
全日本プロレスは四天王で盛り上がったものの、ジャイアント馬場氏の逝去をきっかけに選手が大量離脱。
そして三沢光晴率いるプロレスリング・ノアが旗揚げ。
プロレス界の細胞分裂が活性化したそんな時代。
昔からプロレスを見続けていて酸いも甘いも噛み分けている私と違い、彼がプロレスに魅了されるにはあまりに材料もインパクトも足りない。
足りないのだ。
しかし、彼がプロレスファンの道を歩み始めるキッカケはひょんなところに転がっていた。
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