はじめて傘を盗まれた

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土砂降りの雨のなか、


近所のスーパーに行き、


豆腐とキムチと桃缶と2割引のプリンを購入した、


その五分ほどのあいだに、


誰かが僕の傘を持っていった。


買い物袋を片手にスーパーを出て、


傘立てに目をやり、


「あれ?傘がのうなっとるわ」


と不思議なほどに、


冷静な自分に気づく。


全く苛立たなかった。


その傘立てには、


僕のではない別の傘が置いてあったが、


もちろんそれを持ち帰ろうなんて、


微塵にも思わない。


空は鉛色。


そして横なぐりの雨。


ひとつため息を吐き出し、


雨のなかを、


急ぐわけでもなく歩いて帰った。


途中でひとりのおばちゃんに声をかけられた。


「こんな雨なのに、なんで傘をさしてないの?」

みんなの読んで良かった!