【第10話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。

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前編: 【第9話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。
後編: 【第11話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。

母の左腕には注射針が刺さり、何か透明な液体が注入されている。

この注射針を抜けばたちまちにして母の呼吸は止まるのだそうだ。

母の親族や関係各位にあわただしく連絡を取り、最期をみとれるものを片っ端から呼び集めた。

朝の9時を過ぎたころから病室にはたくさんの人が出入りして、母はいよいよ死のおぜん立てが整ったのだった。

夜中何度も自宅に戻っては子供たちの様子を確認して、時間の許す限り病室についていたけど、朝早く自宅に戻り、家に残したままの子供たちに朝ごはんを食べさせ、すぐに着替えるよう命じた。

昨晩子供たちは、おとなしく寝ていてくれたようだ。

学校はお休みする旨を伝え、2人の子供を連れ母の病室へとんぼ返りした。

病院の静かな階段を上り重い個室の引き戸を開けると、母の周りを取り巻く雰囲気が、より重苦しいものに変わっていることに気が付いた。

子供たちはといえば、さすがに神妙な顔をして僕の後ろに隠れている。

何が起こっていて、今から何が始まるのか、何のために自分たちがここに連れられてきたのか分からないような不安気な表情をし、口を真一文字に結んでいた。

僕は姉に促されるまま病室へと入り、ドアのすぐわきの隅っこに立って、2メートル先の母のベッドを眺めている。

子供たちは僕の上着の裾を握り、後ろに隠れるように立っている。

「ほら、近くに行って顔見てやりなさい、何かお母さんに声かけて、きっと聞こえてるから」

と、誰かが僕の背中を押したけど、頷いたまま、その場所を動くことが出来なかった。

一つ違いの兄は母のベッドの奥、窓際の椅子に腰かけ母の手を握り泣きじゃくっていた。

産んでくれたそして育ててくれた母に伝えねばならぬことが、たくさんあったに違いない。

僕はそんな兄の姿を見て、うらやましいような、恥ずかしいような、それでいてそうすることのできない自分がみじめなような気持ちになった。

兄は、僕には目もくれなかった。

母が呼吸を止めるその瞬間まで、母の手を握り何かを語りかけていた。

「それでは、はずしますよ」

担当の看護師が感情をこめずに言った。

はずすのは、もちろん母の腕に刺さった注射針のことで、これは家族、兄弟の総意だった。

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