【第22話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。

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前編: 【第21話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。
後編: 【第23話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。

その日はいつものように仕事があって、仕事場である近所のショッピングモールまで車を走らせていた。

時刻は午前10時半。

11時からバイトだったので、いつもこのくらいの時間には車に乗っていた。その日は良く晴れていて穏やかな朝だったのを覚えている。

車のガソリンメーターを見るとエンプティーマークが点灯したところだったが、バイトの時間に遅れそうだったのでガソリンを入れるのは仕事終わりにしようと思った。

ガソリンスタンドを見送り仕事場に着いて、いつものようにへんてこな制服に着替えたら、仕事にとりかる。

お昼時は忙しいから、休憩が取れるのは14時半ごろ。何も変わらない時間。最近ちょっと気になることがあるといえば、頻繁に小さい地震が来ていて、大きなショッピングセンターといえども揺れを感じることがよくあったこと。

その日はそれほど忙しくもならず、14時半には休憩を取ることが出来た。みんなはそのタイミングでご飯を食べたりするのだが、僕はお金がないので、最近休憩のたびに立ち読みしながら読み進めていた小説の続きを読もうと思い、ショッピングモール2階にある本屋に行った。本当は買いたいのだが、今の僕にそんな余裕はない。時間もつぶせるしお金もかからないので、立ち読みで良しとしていた。

その小説は直木賞を受賞した話題の新作で、書店の一番目立つ場所に平積みされていた。

毎日立ち読みで読み進めていたにので、どこまで読んだか分からなくならないように、僕はこっそりしおりをはさんでおいていた。休憩中に本を読むのが唯一の楽しみだったので、時間目いっぱい読もうとその日も決めていた。

しばらく立ち読みを続けていたのだが、ふと、ほんのわずかではあるが足元に違和感を感じた。違和感というにはあまりにも短い時間だったけど、感覚的に言ったら今までに味わったことのない違和感であることは間違いなかった。

なんだ、これは。

足元から腰のあたりまで伝う、なんとも表現しがたい違和感。時間にしておそらく数秒にも満たないほど。

腰のあたりまで来ていた違和感が、体全身を貫き膝から崩れ落ちそうになる。一瞬にして脳が指令を出した。

「逃げろ」

今まで30年以上生きているが、自分の脳がこれほどまでに的確かつ迅速に「逃げろ」という指令を下したことは無い。

このままこの場所にとどまったら危険だ、逃げろ、と。

これが動物としての本能なのかと思うほど、一瞬の判断だった。

ショッピングモール内の書店には大きな本棚がいくつもあり、僕が立っている場所の目の前にも背丈の倍ほどの棚があったのだが、ふとその目の前の棚に目をやると、並べられていた本が今にも外に落ちそうなくらい飛び出していて、棚自体もこちら側に覆いかぶさってくるのではないかと思うほど激しく揺れていた。

目の前が歪んで見ているのではないかと思うほどの光景。

味わったことのない感覚が体全身を突き抜け、状況は全く把握できなかったけど、一刻も早くここを立ち去らねばならないと思った。轟轟と地響きのごとく恐ろしい唸りがどこからともなく聞こえ、膝から崩れ落ちるほどの揺れを感じ、動こうにも身動きが取れない。体の平衡感覚がなくなり、頭がパニックに陥った。

ここにいたら、死ぬ。

今、自分の身に何が起こっているのかはよくわからなかったけど、これは単なる揺れではない。ショッピングモールに爆弾でも投下されたか、はたまたジェット機でも突っ込んできたのか、そのくらいの激しい衝撃は僕の人生で経験したすべての衝撃をはるかに凌駕していた。

一刻も早くこの建物から外に出なければ死んでしまうぞという脳からの指令を信じ、僕は読みかけの本を放り投げ、一番近い出口から駐車場へ向かって全力で走った。

何も考えずに我先にと出口を目指した。

脳が僕に逃げろと指令を出してからここまで、わずか数秒。

これは決して大げさなどではなく、生まれて初めて本当に「死」というものに直面した瞬間だった。

走っているときも、まるでトランポリンにでも乗っているかのように体が宙に浮きあがる。間違いなく今自分が立っているところは鉄筋の建物であり、駐車場はアスファルトだったにも関わらずだ。

今までの経験ではありえない状況、脳が判断できる許容をはるかに超えた事態に、ただただ無我夢中で走った。

脳からの指令は相変わらず「逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ」

平成23年3月11日。

いわゆるこれが、僕の経験した東日本大震災発生の瞬間。

この未曽有の出来事は、またしても考えうる最悪の事態の想定を、はるかに超えていたのだった。

この一瞬の出来事が地震のそれであると分かったのは、だいぶ後になってからのこと。

時間にしてどれほどが過ぎたのだろうか、あまりの混乱に自分がどこで何をしているのか、これから何をしなければいけないのか、まったくわからなかった。

ショッピングモールの本屋を飛び出し、立体駐車場の2階部分からスロープを下りて地上の駐車場へと向かったのだが、そこから先何をしたらよいのか分からない。

駐車場には自分と同じようにショッピングモール内から逃げてきた人でごった返し、そのすべての人が戸惑いの表情だった。

一体何が起こったというのだ。

揺れが一時的におさまった時、僕は再びスロープを上り2階の駐車場へと上がっていった。それは犯人が現場に戻ってくるのと似た心境だっかもしれない。どうしても戻って、先ほどまで自分がいた場所を見なければいけないような気がした。

恐る恐るスロープを上り2階の駐車場に出てみると、何台も止まっていた車は跡形もなく消え、一目散に逃げた入り口付近は、緊急作動したスプリンクラーで水浸しになっていた。

2階に作られただだっ広い駐車場から外を眺めてみると、ショッピングモールを周回する道路に車があふれ、我先にと車を走らせる人たちで大渋滞を起こしていた。

1階部分の駐車場にも人があふれ行き場もなく呆然としていた。

それはまるで映画のワンシーンのように、とても現実に起こった出来事とは思えぬ光景だった。

それでもまだ、はっきりとは何が起こったのか分からぬ恐怖の中、急に、子供たちは大丈夫だったのだろうかと考えた。

今の時刻は15時ごろなのだろうか。

まだ学校にいるはずだ。

ポケットから携帯電話を取り出し上の子にだけ渡している携帯電話の番号にダイヤルしてみる。非常事態用に持たせている月780円の使用料の携帯電話。こういう時にこそその効果を発揮してもらいたいものだったのだが、一向に電話がつながる気配はない。

僕は再び下に降り、そこで初めて今自分が仕事中であることに気が付いた。仕事の同僚たちはどうしただろうか。

駐車場伝いにショッピングモールの裏手に回り、仕事場であるフードコート側の駐車場に行ってみることにした。そこにもたくさんの人がごった返していて、身動きも取れないような状態。

人をかき分け仕事場の人たちを探した。ぐるぐると駐車場を回っていると、それらしき人影を見つけ声をかけた。

みんな無事らしい。

仕事場の責任者が非常階段を伝い建物内のフードコートに行ってみたのだが、スプリンクラーの水で浸水しており、地震の影響で物が散乱した現場にたどり着くことはできなかった。

このあたりでようやく「どうやら地震が起こったらしい」という情報がちらほら聞こえ始め、震源地は福島あたりらしいということになった。

僕の仕事場だったショッピングモールは海のそばに建てられていたため、ここも津波でヤバいのではないかと、そんな話が漏れ伝わってきていた。

福島で大地震、津波・・・そんなワードが頭に入っては来たものの、まったく現実味をおびなかった。

みんなの読んで良かった!

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