【第30話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。

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前編: 【第29話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。
後編: 【第31話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。

テレビを購入したことで、親としての最低限の役目を果たしたつもりになっていたのだが、だからと言って子供たちが望む生活を提供しているとは言い難い。

相変わらず綱渡りのような生活を続けていたし、子供たちに手をかけてあげられる時間も無い。

9時から22時まで、週5日は子供たちだけで過ごさなければならないわけで、さらに今まではテレビも無い家で子供たちだけで留守番をさせていたわけだ。

テレビを購入してほんの少し罪悪感は消えたけど、子供たちに申し訳ない気持ちは相変わらずで、このままの暮らしを続けていて良いのだろうかと思うのだった。

上の子は来年高校受験を控えているし、下の子も大人が近くにいない環境であまり長い時間過ごさせるのも、気が引ける年頃だ。

仕事は忙しく、家事と育児と仕事に追われ、給料が上がった分生活自体は若干楽にはなったけど、やっぱり悩みは尽きなかった。

お金を稼ぐということと、子供たちを食べさせていくということと、子供たちを成長させる、育てる、環境を整えるという、親としての責任の両面を同時に両立させるむずかしさだった。

両親がいて、祖父母がいてという環境ならそれぞれの役割で分担していくのだろうが、僕にはそれが出来ない。

一つの家族の中において車の両輪のように同時にかつ別々に回り続けなければ安定しないものが、僕はどうやっても片方づつしか回せないのだ。

あっちを回したらこっちが止まる。こっちを回したらあっちが止まる。本当は永遠に先に進むことない車に乗って、僕たちは旅を続けているのかもしれなかった。

生きていくために、子供たちを育てるために、子供たちに輝く未来を与えるために、そして何よりも、父子家庭という家族の形を維持するために、僕はどの道を選択すべきなのか、何度となく迷った。

仕事場では新しい人が入ってきたりして、また環境が変わりつつあった。

仕事も覚え、仲居さんやフロントの方たちとも顔見知りになり、話し相手も出来てそれなりに自分のポジションも確立して、どうにか過ごせるようになった。

僕にとってラッキーだったことは、新しく入ってきた人がたまたま僕の自宅の近所の道を通勤で使っていたということ。朝はさすがに電車通勤を続けたが、帰りはその人が送ってくれることになり、仕事終わりに駅まで全力疾走しなくてよくなったために、体力的にもずいぶん楽になり、帰宅時間も格段に早くなった。

やっぱり車がないと生産性に欠けるのだなと、改めて思うのだった。

帰宅時間が早くなったとはいえ、それでも21時半までは家を空けなければならず、監視の目が緩まったうえに大人になりつつある子供たちは、だんだん帰宅時間が遅くなっていき、僕が帰宅しても子供たちが家にいないなんて日がちらほら出始めてきた。

さすがにこれは生活のためとはいえ、お金を稼ぐことに趣を傾けすぎた弊害が出始めていると考えざるを得ない状況だ。

今度は止まったままのもう片方の車輪を、回さなければならない時期に来ているのかもしれない。

新しい人も職場に加わったし、僕はこの辺でこの仕事の役割は終えたのではないかと考えた。

社員で仕事をするということ自体は、子供たちもだいぶ大きくなったし不可能ではないということは分かった。

だからと言って、12時間の拘束にはいささか無理があった。滞っていた光熱費等の支払いのほとんども軌道に乗せたし、この生活を維持できるだけの最低限の収入がある仕事、かつ拘束時間の今よりも短い仕事に転職しようと決めた。

仕事を続けながらいつものように職探しをしつつ、休憩時間に電話をかけまくり履歴書をせっせと送って、休日には面接という生活を送った僕には、一つ分かったことがあった。

それは、正社員として働くうえで飲食業という職種は、不都合が多いということ。

この辺の田舎の飲食業はおおむねチェーン店しか職がなく、求人の募集要項は軒並み若い方限定、さらには転勤ありの長時間労働。シフトなどという物は形式に過ぎず、朝から晩までの拘束時間は免れそうにない。給料はそこそこなのだが、これでは転職する意味がない。

もはや茨城県で飲食業を続けていくのは、不可能なのではないだろうか。

調理師しかしたことない僕だったけど、もうこの職種での仕事は潮時なのかもしれなかった。給料が安いということよりも、拘束時間が長いとか、休日がないとか、時間が読めないとかのほうが、生活の安定には支障があった。

拘束時間が短く、給料もそこそこで休日もある。時間的な融通をつけやすく、時間で帰れる仕事。

いくら探しても、そんな仕事は無かった。

少しばかりお金を手にして生活の安定みたいなものを知ってしまった僕は、今更またアルバイト生活に戻る気にはなれなかったし、それよりなにより、確実に前に進んでいるという実感を得るためには、どうしてもアルバイトに戻るわけにはいかなかった。

それがたとえ錯覚だったにせよ、その錯覚があるかないかでは、今後のモチベーションに相当の差が出る。良いか悪いかは別にして先に進んでいるという実感、これは僕にとっては重要かつ必要だった。

たった一人で父子家庭などという訳の分からない生活をしていると、このまま底なし沼のような生活苦に溺れて這い上がれないのではないかと、不安で不安で眠れない日がある。

25万も給料を貰っていたのに、また給料10万円の生活に戻ったのでは、もう二度と「生きよう」という意欲そのものがわかないような気がした。

あの暮らしには、戻りたくない。

アルバイトはない、お金は余らなくても、最低でも3食まともに食べさせてあげられる生活。これは死守しよう。そして、子供たちと過ごす時間も大切だ。

求人雑誌やインターネットをくまなく探し、僕がたどり着いた一つの答えがこれだった。

営業。

営業などやったことは無いし、実績も無い。もっと言えば、スーツを着て出勤し、土日祝日がお休みなどという暮らしを、僕はしたことがなかった。なにせ、高校を卒業してからずっと料理人なのだから。

そんな僕に、サラリーマンという仕事が務まるのかどうか分からなかったけど、求人の募集内容を信じるのであれば、これはなかなか今の自分に合っている職種のように思えてきたのだった。

週休2日で土日祝日はお休み。勤務時間は朝8時半から17時まで。給料は20万円也。

その仕事の内容は、人材派遣会社の営業マン。

人材派遣という仕事は知らなかった。何をしているところで、どうやって儲けを出す会社なのか、さっぱりわからなかったけど、そんなことはどうでもいい。面接に行って合格したら考えればよいことだった。

ただ一つ困ったことは、車がないということ。

他にも数社、営業の仕事で面接に行ったのだが、車がないということは相当ネックになっており、それによって不合格とか、合格しても辞退せざるをえなかったりと、車の必要性は不可欠だった。

不動産屋の営業マンに募集して面接に行き、宅建の資格も無ければ営業経験も無いのに、持ち前のなりきりキャラの面接術ですっかり社長に気に入られ、その場で合格になった仕事があったのだが、車がないということを伝えておらず、あえなく辞退ということがあった。

そこは、マイカーを使って仕事をするタイプの会社で、車を持っていなければ仕事はできない。

そんなこと僕は知らなかったし、社長も、この田舎の車社会の現代において、まさか車も持っていない人が面接に来るなどということを想定していなかった模様で、なんだかお互い変な空気になってしまったのだ。

給料も良かったし、休みもいっぱいあった仕事だったけど、車を持っていないというだけでその職に就くことが出来なかった。

それでもよく考えてみたら不動産屋の営業は荷が重いように思えて、車がないことを言い訳に辞退したのだった。

この経験を生かし、職探しと並行してマイカーの購入に向け動き出した。車を購入し、僕にでも出来そうな営業の仕事を見つける。

幸い、今は正社員として働いているし、ローンぐらい組めるだろう。生活が安定しないから借金には正直二の足を踏んでいたのだが、そんなことも言っていられない。これは未来の自分への投資であると考え、ローンによるマイカー購入へと舵を切った。

そうと決まれば善は急げで、近所の中古車屋をめぐり休日を使って中古車を物色、10年落ちのホンダストリーム、25万円を3年ローンで購入することにした。

ローンを組む時に就業年数を書く欄があるのだが、正直に3カ月とかいたら販売店のベテラン営業マンが「1、足してください、隣に」というので、就業年数1年3カ月で提出。

このアドバイスが効いたのかどうかは定かではないが、無事ローンを組んでマイカーを購入することに成功したのだった。

これで何となく人並みの生活っぽく体裁は整ったけど、月1万3千円のローンが残り、僕の生活パターンは新たな展開へと突入した。

これからは、光熱費と食費だけではなく、借金返済も加わる。車体は25万円だったけど、その他もろもろ保証とか金利とかで50万近くの総額になってしまったために、月1万3千円。

現金を持っていないから仕方がなかったけど、手痛い出費であることは間違いなかった。

車を購入したということはガソリン代もかかるし、税金もある。任意の自動車保険も加入したし、車を所持するだけで相当の出費が予想された。是が非でも、この出費を回収できるだけの生産性を確保しなければならない。

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