【最終話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。

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前編: 【第46話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。~最終話まであと1話~

「事故直後は血管が収縮していますので、時間が経過したのちに再度CTを撮ります。血管が元に戻るときに多くの場合出血が見られますので、これ以上出血個所が広がるようでしたら処置をしなければ助かりません」


なかなか理解することは難しいとは思いますが説明を続けますと言って、さらに骨折箇所の説明とその治療方法を告げた。


鎖骨と大腿骨は早々に手術をし、その他の骨折箇所に関しては、整形外科医の判断を仰ぐといった内容。


全ての説明を聞き終えて


「なにかご質問ありますか」


と医師が言ったけど、ご質問と言われても知りたいことは一つだったので、単刀直入に聞いた。


「死ぬ可能性はどのくらいでしょうか」


「現段階で50%、半々です。24時間が山ですので、今日1日は必ず連絡が取れるような体制を維持していてください」


気分が悪い、眩暈がしたので目を閉じて俯いた。


医師は最後にこう付け加えた。


「私の経験と勘ですけど、お子さん18歳ですね、若いから大丈夫だと思います」


「どういう意味ですか」


「若いっていうのはそれだけで十分期待できるだけの材料なんです、若いから恐らく大丈夫だと思います」


若いから大丈夫、そんなものなのだろうか。


これが年を取った人の、例えば僕ぐらいだったとしても、助かる可能性はほぼゼロの状態らしいのだが、若いというだけで命を繋ぐ可能性は格段に上がるのだそうだ。


「良かったのかどうかは分かりませんが、回復という点だけ見れば、若い時の事故で良かったとも言えます」


そう言って医師は診断書の説明を受けたサインを求め、退室していった。


その後看護師が部屋に入り、同意書やらなにやら数枚の書類にサインを求め、今後の入院生活の説明と、救命室に面会に来るときの約束事の説明をした。


その中に、脳の手術の同意書、その他手術の同意書、麻酔の同意書、輸血の同意書、拘束の同意書など、恐ろしいものばかりで手が震えたのだが、矢継ぎ早に求められるに応じてサインをし続けた。


「ありがとうございます、分からないことがあればその都度聞いてください」

看護師は僕に笑顔でそう言った。

突然のことで大変でしょうけど出来る限り力になりますと、最後に付け加えてくれた。


「はい、お世話になります」


「1時間後にCTを撮り、その結果によっては手術となりますので、申し訳ないのですが1時間は待合室で待機してください」


「わかりました、ありがとうございます」


「息子さんの顔見て行かれますか」


看護師は僕に部屋を出るよう促した。


どんなことになっているのか、怖くて怖くて仕方がなかったけど、会わないわけにはいかない。


2枚目の自動ドアをくぐり、手を洗うよう命じられ、アルコール消毒をしたら救命室に入れることになる。


だだっ広い部屋には、ベッドがいくつも並べられていた。


無数の機械が置かれ、ランプが点滅し何かの数字が映し出されている。

テレビで見る救命救急室と、さして変わりはない。


緊迫した雰囲気。


救命室の一番奥のベッドまで連れて行かれると、首に鞭打ちの人がつけるようなものを巻いて、両手には緑のミトンのような手袋、胴の部分でベッドに括りつけられ、左腕には点滴。


真っ二つに折れている右足の膝部分にはねじのようなものが埋めこまれていて、そこから錘をぶら下げ吊られている。

2キロの錘をつるして、足を引っ張っているのだとか。


まぎれもなく、上の子だった。


今まで見たことも無い姿で、横たわっている。


踵とか腕とかむき出しの部分には数か所擦り傷があったけど、顔は思っていたよりもきれいだった。


ベットに括りつけられた状態で、眠っている。


「意識はあるんですか.?」


「先ほどここに連れてこられた時は、自分の名前を言ってましたよ」


耳元まで近づき名前を呼んでみたけど、何の反応も無かった。


「また来るから、必ず助けるから、死ぬなよ」


耳元で2度、言って聞かせた。


診断書2枚と、おびただしい枚数の同意書の控えを渡され救命室を後にした。


自動ドアをくぐり待合室に戻ると、3人の先生はまだそこで待っていてくれた。


どのような状況でしたかと、口に出さずとも顔に書いてある。


「命を失うかもしれない危険な状態だそうです」


なるべく感情をこめずに言った。


感情をこめてしまえば、立っていることも出来ないだろう。生活指導の女性の先生は、その場で泣き崩れた。


「顔を見てきましたけど、思ったよりもきれいで安心しました。意識は無いような感じです」


精いっぱいの冷静さを装って言葉をつづけた。


「1時間後にもう1度CTを撮り、脳の出血が広がるようであればその場で開頭手術だそうですので、その結果が出るまで僕はここで待機しています。追って連絡しますので、今日のところはお忙しいでしょうからお引き取りください。ご迷惑をかけて申し訳ありません」


深々と頭を下げた。


自分が今、どんな感情なのかさえよくわからない。


担任の先生は一緒に残ると言ったので、2人で待合室にいることになった。


待合室の壁掛け時計を見ると、午前10時50分だった。


「若いから大丈夫だと、担当の医師は言ってました」


「そうです、若いから大丈夫ですよ」


僕達は根拠の良くわからない医師の「大丈夫」にすがることにした。


待合室は静かだった。


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