十年と少し、前のこと。別れても、ひかれあう。
「同じ空の下にいる、って言うじゃない?
古びた実家のベランダで、淡い夕焼けを眺め風にふかれながら、
何故か不意に、君がとても幸せになったように感じた。
そして、翌春の卒業者名簿に、姓が変わった君を見つけて。
俺って、案外捨てたもんじゃないな、って思ったよ」
未だこの人生で一度しか使ったことのない、新御徒町駅。
我が目を疑う、君がいる。
いや、相違ない。五十米先から一瞬でこの眼に飛び込んで来たんだから。
扉が閉まり、はしりだす大江戸線。ほんの僅かな逡巡は、破棄。
四つの扉を越えて君のもとへ。良かった、隣はあいている。
自分でも不思議なほど、軽やかに挨拶をしながら座り、
彼女は驚きながら、にっこり微笑む。 …女って、強いな。
少し世間話、そののち僕は訊く。
「今はYさんだっけ?
うん、知ってるよ、名簿、見たから。
春日駅。
ここで下りるね - ああ、実家行くなら、そうだね。
「伝えようか迷った、でもできなかった。
貴方が知っていてくれて良かった」
その言葉に戸惑いながらも、僕は笑って手を振って別れる。
男だって、ちょっとは強い。
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