今考えるとトンデモなかった会社の話

1999年、約20年前のこと。実家から車に布団ととりあえずの生活用品あたりを積んで大学の町に戻った。


大学を出て1年実家に住んだ後、やっぱり大学を過ごした町が忘れられなくて。

ひとまずは友達の家に居候させてもらう。(結局、この時から5年程、居候することになるなんて思ってもいなかった)

まずは仕事である。仕事を探さないことには当然、生きていけない。

就職情報誌をあたり、幾つかの会社に履歴書を送る。

その中で見つけたのがとあるインターネットショッピングモール運営会社だった。

その頃はちょうど楽天市場が流行りだしていた頃で「インターネットショッピングモール」が隆盛だった。

・通常のホームページ(つまり、例えば個人のアパレルショップがやってるサイト)はある意味「人の来ない砂漠の真ん中にある店」のようなもので、インターネットの広い世界では誰も来ない。SEOなんてのが一般的な用語になるのはもう少し後のことだ。

・一方で楽天市場は大きなデパートのようなもので、デパート自体に人が来たとしても、その中で「選んでもらえるお店」になる必要がある。

そこで、地域や商品に特価したショッピングモールが必要だ、というのがその会社の考えだった。

そのような募集要項を見て、応募したところ面接してくれることになった。

しかしまぁ、いま考えてもトンデモない会社だった。


面接会場は本社事務所だったが、行ってみると普通のマンションの一室だった。1DK、奥の和室が社長室兼応接室、手前のDKが事務所。DKには社員のデスクが並んでいる。

その社長室で社長(Sとする)と面接。

S社長は小柄でいつもチノパンとポロシャツというスタイルだった、35歳。元々は水産関係の仕事を仕事をしておりネットブームに乗ってこの会社を立ち上げた、とのこと。会社説明としては上記のような「ホームページ=砂漠の店、楽天=デパート」という話に基づき、その中でこの地域に特化したネットモールを立ち上げる、ということだった。

僕自身はネットに関しては全く知識が無かった。しかしネットはもちろん好きだったし、「これからはネットの時代だろうな」とは思っていた。(誰だって思うはずだ)

内定をもらったため、入社を決意した。


当時の会社組織としては下記のようになる。

S社長=社長

M部長=営業部門のトップ。元ソニーにいたとのこと。当初は「すごいなぁ」とは思ったものの、後々「ほんとかいな?」と思うようになる。

K部長=ホームページ制作部門のトップ。どうやらマルチ商法をやっているようだった。と言ってもアム◯ェイだとかそういうメジャーどころではない様子。特に勧誘するしてくることも無かったので僕にとっては無害。

Tさん=営業マン。僕が入社後1週間で退職してしまった。年も近く気さくな方だったけど、毎日何をやっていたのかは不明。

Hさん=女性事務員。どうにも不思議な雇用形態で少し前までは社員だったようだが今はパートになっている様子。来たり来なかったり。しかし明るい方でいろいろと相談に乗ってもらった。

Uさん、Nさん=女性。外注のホームページ製作担当。


入社してみるといろいろと「あれ?」と思うところがあった。

1,駐車場代

会社には車で通勤していたのだけど、車はマンションの駐車場に停める。その駐車場代は個人負担。3日で1,000円だった。当初は「そんなものかな」と思っていたのだけれど、これは結構痛い。

2,お中元

夏になると社長の指示で「市場のとある店にメロンを取りに行き、◯◯さんという名前でここに送れ」という指示が出た。僕はその店に行き、会社名を告げメロンを引き取る。指示された送り人、宛先を記入し運送会社に持込、送る。、、ということを1週間ほど続けた。おそらく30箱くらいは送ったんじゃないかと思う。その時にはどうも分からなかったけど、その後、なんとなく耳に挟んだ情報によると◯◯さんというのは警察のお偉いさんらしい。どうも想像するに、その警察のお偉いさんの賄賂とかに加担しているのかも知れなかった。

3,サーバー

会社にはパワーポイントで作ったプレゼン資料があった。お客さんにはこれを見せて「ウチのモールに出店してくださいよー」というプレゼンする。そのプレゼン資料には「当社のサーバー」として「SUSサーバー」というものがドドンと出ている。ちなみに「SUS」というのは「スペシャル・ウルトラ・スーパー」の略。バカバカしいが。。しかしバカバカしいのはネーミングだけじゃない。そもそもそんなサーバー「無い」のである。この会社のサーバーは知り合いの会社のサーバーを間借りしているだけであり(つまり、レンタルサーバー)、社内にはサーバーは無い。

4、M部長

元ソニーのマーケティング部長、とのことだったが、どうも「それほんまかいな?」と思うことばかりだった。まずそもそも常に酒臭い。顔は赤ら顔で昼過ぎなどはデスクで居眠りをしている。この会社においても「営業部長」の役だったから日中はスーツを来て、外出していた。営業報告では「◯◯エージェンシー、株式会社××が動き出してきました、次は社長プレゼンです」という話で、出てくる名前は僕でも「大企業」と思うような会社ばかりだった。僕としては「流石だなぁ」と思っていたけど、結局、それらの案件が決まることは無かった。あとで分かったことだけど、◯◯エージェンシーにしても株式会社××にしても、結局のところ知り合いである担当者とコーヒーを飲んでるだけで、話が決まるわけも無かった。おそらく、そのうちの何回かは行ってすらいないのだろうと思う。

ある時、この部長がセクハラ的なことをしていることが発覚した。一人で酒を飲んでいる時に、外注のUさんを呼び出したそうだ。そこで「一緒にホテルに行こう」などと誘ったらしい。そういうことが発覚したこと、また結局のところ営業としては一切売上が上がっていなかったこと、そして、ひどすぎるアル中のために部長は解雇された。

この人のことで覚えているのは、会社にS社長宛の外線がかかってきて、僕が出たのだけど社長がいないので「申し訳ありません、Sはただ今外出しております」と答えた時のこと。脇でそれを聞いていたM部長が僕を呼び「お前は自分のところの社長を呼び捨てにするのか?」と怒られた。社外の人に社内の人の名前をいう時には敬称を付けない、というが社会人マナーとしては当然のことだろうと思ってたので、「あれ?本当にこの人、ソニーにいたのかな?」と思った。

<仕事内容>

テレアポ、飛び込みの営業である。電話帳で調べて「インターネットショッピングモールの会社です」と言ってアポを取る。なかなか電話でアポを取れるものでも無いのであとは飛び込み。まだまだホームページ製作が一般的ではない、とはいえ、誰も知らない、というレベルではない。

中には「1日あたりのPVは?」などと聞かれることもあった。当時は「1日あたり20PV」だった。ひどいものである。個人のブログですらそれよりは見られているのではないか。

当然のことながら、ショッピングモールに出店する理由は「そのショッピングモールに人が集まる=PV数が高い」からである。そのPV数がそのレベルなので「じゃあ、そこにネットショップを出そう」という人などいるわけもない。

契約内容としては通常プランで初期導入日10万/月額3万。これには決済機能は付いていない。つまり、たんなる店舗紹介ページ1ページということになる。

普通に聞けば「誰が契約するんだよ?」という内容ではあるが、不思議なもので、一生懸命営業して回っているとちょこちょこでも取れていくものなのである。

僕が獲得した契約は、

・ワイン販売店

・日本酒販売店

・個人中古本小売店

・個人焼肉店

だった。

獲得して、それを外注に回し1ページのHPを作る。当然のことながら外注、ほぼ素人同然の人が作っているのでデザインに関してはクレームというか「うーん、もうちょっとどうにかならないの」という意見があった。

<給与>

月額総支給額15万であった。「すぐに売上が上がる、上がれば成果報酬だ」と言われていたが、どう考えてもこれは少ない。しかも、まともに入金されたのは入社2ヶ月目までであった。それ以降は「会社の業績が悪い、それは営業が仕事を取ってこないからだ」ということで給料が遅れた。「うん、確かに僕が契約を取れていない」と思っていた自分がいたのも事実である(←アホだ)

今考えると完全にブラック企業、というか給料を払わない時点で企業ですら無いわけだが、世間知らずというのは恐ろしいものである。

給料は出ないのに、会社に来るだけで駐車場代で3日で1,000円取られる。ちなみに、これは会社に取られているのではなく、マンションの管理人が徴収しに来る。

営業で回っていても駐車場代など出ないので、路上駐車する。1度、切符を切られたことがあって罰金を取られた。

流石にこれはやっていられない。

一度、営業に出るときに社長が「乗せて行ってくれ」と乗ってきた。運転していると車のダッシュボードにあるガス料金の支払伝票を社長が見た。「払ってないのか」「ええ、お金が無くて」という会話をすると、社長がコンビニに寄り、支払ってくれた。


・・・とだけ書くと美談に思うかも知れない。

だけどこれは後日談があって、それから10日くらいに給料が支払われた、一部、5万円だけ。しかもそこからはその時に払ってくれたガス料金がしっかり引いてあった。

一瞬でも感謝した自分がバカである。


<社長について>

正直にいって、僕が今まで出会った経営者の中で最低レベルである。そもそも論、給料を払わない、という点で経営者としては失格なわけだが。。僕が見る目が無かった、ということの1点に尽きる。

会社経営や営業ということはまったく分かってないし、おそらく興味も無い。ただ自分が儲かれば良い、というだけだろう。そして従わないものには怒号、である。


ある時、社長のお客さんとして母子が来ていた。社長はその2泊3日、その母子を連れて観光をし、夜は社長室で話をしていた。どういう関係のお客さんなのかは分からない。仕事のつながりがあるのか無いのかも不明。そして社長がムダ話として僕に言ったことは、社長はその母子両方と体の関係がある、とのこと。最低である。

そんな時、夕方に僕が社長室に呼ばれ、その母子が借りたレンタルビデオを返して来てくれ、と言われた。公私混同も良いところである。

給料が出ないこと、そもそも仕事自体半分(いや、8割か)詐欺であること、社長からの扱われ方、それらを考えるとこの会社にいる意味は全く無いと考え、僕は退職することにした。


<退職について>

僕は社長に退職の意向を伝えた。すると言われたことは「いま、アプローチしている◯◯社と××社はどうする?」ということだった。◯◯社にしても××社にしても会ったことは会ってはいるし、ネットに興味があることはある。そのように会社に伝えてはいるが、正直、今の段階では僕は契約は取れない、というか取りたくない。契約を取ったとしてもそれは自分として嘘になるし、そもそも給与をまともに払わないような会社(と、社長)の利益になるようなことにもう加担したくない。そう思い、「正直、取りたくありません。誰かに引き継がせてください、その方にお任せします」と伝えた。

すると社長は「取ります、と言ったのはお前で、会社としては取ってこい、と指示した。その指示に従えないということは職務規定違反だから、取るまで辞めさせない」とのことだった。

うーむ、ひどい論理もあったものである。

こうなると一切話しが通じない。「取ってこい、取るまで辞めさせない」という怒号である。

とりあえず僕の退職話は有耶無耶にされた。

<退職まで>

とりあえず、在籍はすることになった。朝出社し、「行って来ます」と会社を出る。例の◯◯社と××社には行く。しかしまぁ、冷静に考えればわかるが毎日行ってもどうしようもない。時間はあるのでその他のお客さんのところも回る。個人的にはもう自社のネットショップを売る気などまるで無かった。社長にも言った通り、会社と社長を利することなどしたくない。

すべては自分の今後のためである。

商店会で、いつもぼけっとお茶を飲んでいる初老の方に声をかけると、実は前商店会会長だった。その人から商店会の内幕を聞いたりした。別に裏話を聞きたいというわけではなくて、町のことを理解したかっただけの話。今の商店会長はどこの店の人で、その息子さんがどこで商売やってて、その息子さんと仲がいいのはどの店の人で、、など。結果的にはそういう話が自分のその後のビジネスに役立つことになる。

そういう日々を2週間ほど続けた後、本当にこの会社に居てもどうしようもないな、とつくづく思った。

S社長とK部長が社長室にナンパした女性を連れ込み、写真(つまり、ハメ◯り写真というヤツ)を撮ってネットに上げていた。社長室のソファを使って。僕はK部長から「ちょっと見てご覧よ、昨日さ―」という感じで話を聞き、知った。本当に最低である。ちょうどこういうサイト(つまりいやらしい写真をアップし、そこに広告バナーを貼り、広告収入を得る、というサイト)が出始めた時でもあった。それをやるか、という話にS社長とK部長ではなっているようでもあった。もう会社としてはほぼ崩壊している。

この時点で営業部長だったM部長は退職(というか実質クビ)になっている。どうやらS社長は今までの勤務内容などから裁判をするつもりのようだった。2人いた外注のパートさん(Uさん、Nさん)のうち、Uさんはすでに退職(当然だ、M部長にセクハラされたんだから)。Nさんもおそらく時間の問題だろう。だって契約が取れてないんだから、作業自体無い。Hさんはすでに退職済。退職後も僕とは気が合いご自宅(ご結婚されており、マンション)に誘ってくれたりしていた。Hさんも未払いの給与があり、週に1回くらい会社に電話をし「給料いつ払ってくれるのー?」とあっけらかんと社長に聞いていた。

つまりこの時点で会社としてはS社長、K部長、僕だけ。

K部長はマルチでそれなりに稼いでいるようだったので給料が出なくても生活はしていけそうな感じだった。

僕が社長から言われることは相変わらず「◯◯社と××社」のことだけである。そして相変わらず給料は出ていない。

僕は労働基準監督署の相談ダイヤルに電話した。用件としては「給料が出ていないこと。数週間前に退職を申し出ていること。この状態で退職することには問題無いか」ということだった。

相談ダイヤルの方も親身に相談に乗ってくれ、法律上は問題無いとのことだったので、次の日から出社しないことにした。

それから特に会社と社長からは連絡はない。

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以上が僕が働いていた「トンデモない」会社の話です。

20年近く前の話なのでまだ「ブラック企業」という言葉はそんなに無かったと思う。ではブラック企業が無かったかというとそういうわけでも無い。

何もかも「ブラックだ」と言ってしまう今の風潮には個人的に違和感がある。例えば「残業一切無くて給料もそれなりなんだけど、人間関係が最悪」という会社もあるだろうし「給料は成果報酬でやればやっただけもらえるけどやっぱり数字のプレッシャーがキツイ」という会社もあるだろう。「残業一切なし、給料もかなりいい、だけど仕事のやりがいは皆無」というところだってある。「ブラック」と言い出してしまうとどの企業だってある側面で「ブラック」なところがあるのかも知れない。「ブラックかホワイトか」ではなく、全ての仕事は「濃淡のグレー」なんじゃないかと思う。

「ホワイトで無ければブラック」と思ってしまうと本当にどの企業もブラック企業と思われかねない。

しかし、明らかに言えることは「給料が出ない会社に在籍する必要は全く無い」ということ。働くということは根底に「労働契約」がある。その大前提は「会社側は社員に給料を支払う」ということだ。その多寡はあるにせよ、「給料が出ない」というのは契約違反だと思う。


繰り返しになるけど「給料が出ない会社に在籍する必要は無い」

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