アルコール依存症の母が死をもって私に気づかせてくれたこととは。

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と恩きせがましく言われた感じがして嫌だった。


ただ単に母を尊敬するがゆえに思わずこぼしたことだったかもしれないのに。


そんな私にはこっちは頼んでないのに、とひねくれた感情しか持てなかった。


怒りとイライラから私はマイナスループにはまり込んでいた。


変わってもらった席の隣は青年の兄夫婦だった。

歓迎してくれている雰囲気に安心したのか、

母は力士の登場ごとに母の持つ豆知識をその夫婦に披露し続けた。

傾聴してくださるご夫婦。

その様子を見て他人のふりをした私。

もう早くここから消えたかった。

愛に溢れた対応だったのにその善意さえも迷惑だとマイナスに捉えてしまっていた。

後日その家族に対して抱いた感情を振り返って私は愚かだったと反省した。


優勝パレード



横綱白鵬の優勝だった。

優勝パレード、見たい。
わたし
背中痛いんじゃないの?
そんな体で白鵬が出てくるまで待てるわけ?
うん。
待てる。
というか、待つ。
意地でも待つ。

執念を感じた。

本人の意思を尊重し、白鵬がオープンカーに乗るのを今か今かと待った。

1時間ほど待った。

母はじっと耐えていた。


待ちに待った横綱白鵬に母は興奮し、嬉しそうだった。

喜んでいる姿を見て、さっき怒って悪かったなと反省した。

帰りにちゃんこ鍋を食べたいねということになり、両国駅周辺を探したがどこも満席だった。

しょうがなく、両国を離れることにした。


その夜私は秋葉原のホテルに泊まる予定だった。

ここから母の家まではだいぶ遠い。

母が疲れていたので、ホテルに一緒に泊まることにした。


秋葉原駅近くにある居酒屋で腹ごしらえをし、ホテルへ向かった。

ホテルの部屋でさらにお酒を飲み始めた母に、

早く寝なよ

と言って眠りについた。

翌朝目覚めてトイレに行くと、床が濡れていた。

母がシャワーの水をトイレ側にかけてしまったのだろうかと思ったが

それは母のおもらしだった。

トイレだけでなく床にベットにとそこら中が尿だらけだった。


ありえない、と怒りながら掃除する私を見て

母はしょうがないじゃない、と悪びれもせず言っていた。


身体中の筋肉がなさすぎるからこうなるんだよ、と私は母に怒鳴り、追い詰めた言い方をした。


母の履いていたズボンは尿でびしょ濡れだった。


チェックアウトして私たちは東京駅まで行き、そこからそれぞれ家路につくことにした。


ズボンが尿で汚れたままだったので駅でズボンを買おう、と探したが適当なものが見つからなかった。

乾いたから、もういい。

という理由からズボンは諦めた。


それから母はまたお酒コーナーへ向かい、好きな日本酒を買っていた。


その姿を見て腹が立った。

歩けないわ失禁するわ、人に迷惑しかかけないくせにそれでもまだ飲むのか、と。

もうこんな奴知るか、と母と早く離れたい気持ちになり無理矢理母を電車に乗せて帰らせた。

心配せんで大丈夫。
一人で帰れるから。


と言いはる母にしつこく大丈夫なのかと尋ねた。

家まで送ってあげたいがそんな時間は私にはなかった。

心配だから、の一言が言えなかった。


それが母と会った最後の日となった。



なぜこんなにも母にイライラするのか

酒を飲む飲まないは本人の決めること。

干渉しない。


と口で言いながらも私は心からそう思っていなかったのだ。


酒を買う姿、飲む姿を見るとあの辛かった記憶が蘇るからだ。

(詳しくは、母がアルコール依存症になってから10日間地獄を見た話。をご覧ください)


自分が、あの時のような母をもう見たくないという思いから

酒を飲むことをやめて欲しいというかなわない欲求を持ち続けていたのが原因だ。


自分がまた、あの悲しい辛い思いをするのが嫌だった。

だからお酒を飲まないで欲しいと思った。

飲む飲まないは本人の問題であって、私がどうこう出来ることではないのだ。


他人は変えられない。

本人に任せて、自分は関わらない。

ここまではわかっているつもりだった。


わかっていると言いながら、酒をやめて欲しいという思いを私が捨てきれずずっと抱えていたのだ。


酒を入れたコップをテーブルに置く、あの音が聞こえるだけで私は反応していた。

朝の寝起き時や、受話器の向こうからこの音が聞こえる度にイライラが止まらない。

まるでパブロフの犬のように条件反射していた。




このコップの音を聞かずに済めば自分がイライラせずに済む。

だから私は酒を飲むなと母にガミガミ言う。


”私”の”酒をやめて欲しい”という欲求は母の問題だから”私”が実現させることは不可能。

そこは本人に任せて”私”は関与せず、この思いは実現不可能として捨てなければならなかったのだ。

私のイライラの原因となっている”私”の中の欲求にスポットを当てて考えることをしなかった。


そんな私が行き着く先と言ったら、


母の寝顔を足で踏んでやろうと思った。

酒の瓶で頭を殴ってやろうかと思った。

車椅子に乗った動けない母がわがままを言うのに耐えられず線路の上に置いて帰ろうかと思った。

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