高校進学を言葉がさっぱりわからない国でしてみたら思ってたよりも遥かに波乱万丈な3年間になった話【その2:新生活スタート】
私が通うことになった学校は、家から徒歩3分の所にある「マリアノ・キンタニージャ高校」というところでした。中途半端に日本語で「高校」とつけるとまるでギャグ漫画のようです。
余談ではありますが、1年遅れてやはりスペインに来た姉は今でもこの高校を「マリアノ・キンタマーニ」と呼んでいます。姉はマリアノ・キンタニージャさんに謝ったほうが良いと思います。私はマリアノ・キンタニージャさんが誰かは知りません。
生まれて一度も転校というものをしたことがなかった私は、ざわつくクラスの皆の前で先生に紹介されるというビッグイベントに憧れていました。
加えて私は言葉の分からない留学生。
きっと手厚く歓迎されるのだろう、ましてやWelcome!ようこそスペインへSaki!だなんて書いた弾幕でも黒板に貼られていたらどうしようと私は胸を躍らせました。
しかし現実は非情でした。
クラスに通されると、先生が身振り手振りで私の座るべき席を教えてくれ、言われるがままに席に座ると、先生はそのままクラスの外へフェードアウト。
あれ、紹介は?
弾幕どころか紹介すらないという予想外の展開に私がだらだら冷や汗をかきながら席で縮こまっていると、少しして横の子が話しかけてきました。
「Oye tu de donde viniste? Como te llamas?」
え?
重ね重ね言いますが、当時私一切スペイン語分からず。
ポカーンとした表情で相手の顔を見つめていると、向こうもポカーンとした表情に。
あ、これはいけないパターンだ、と私は悟りました。これは面白い。
まず事前にクラスに話がいっていない。
つまり皆私が言葉が分からないのも知らないし、そもそも私が誰なのかすら分かっていない。
いきなりの謎のアジア人の登場に、クラスの皆からの「誰だこの中国人」という視線が突き刺さります。
教室に入って1分経過、日本じゃまずありえないであろうこの愉快すぎる状況から早くも逃げ出したくなりましたが勿論そういうわけにもいかず、更に私は縮こまることに。座高きっといつもの3分の1くらいになっていました。
しかしなんとなく雰囲気で状況が掴めたのか、何人かの子が声をかけてきてくれました。
始めに英語で自己紹介をしてくれたのは、ネレアちゃんという子。
優しいです。鼻ピアスしてるけど。どう見ても15歳じゃないけど。子供2人くらいいそうだけど。素敵ですお姉さん。
とにかく名前を覚えるには特徴と絡めるのがミソだと「鼻ピのネレアちゃんね、よし鼻ピの子はネレアちゃん」と頭の中で復唱し、次の子に向かいました。
やっぱり鼻ピアスでした。ネレアちゃんが私の中で「鼻ピの子」から「黒髪の鼻ピの子」になりました。
ゴリラやフレディこそいないものの、なかなかツワモノどもが揃ったクラスで私はとにかく将来どころか明日のビジョンも見えませんでした。ネレアちゃん助けて。

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