先生、あんたなんかに何が分かる?(5)

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第四章
「優秀な生徒に、パワーを分けてもらう」
 もう10年以上経ったから書いても人物が特定できないだろう。長く受験指導をしていると忘れられない生徒がいるものだ。A子ちゃんも、その一人だ。
 私の塾に来てくれたのは彼女が小学6年生の時のことだった。最初に面接した時に、一目見て
「この子は賢い子だ」
 と分かった。学力を確認しようとプリントを渡したら、いつまで経っても提出しようとしない。完全に仕上げるまで粘る子だった。
 彼女は小学校の時から
「私は医者になりたい」
 と言っていた。私の塾はそういう子が多い。しかし、家庭は金持ちではないので何がなんでも国立大でないといけないと覚悟していた。私の小学校時代とはえらい違いだ。
 中学校では猛勉強して常に学年でトップクラスだった。そして、
「自治医大だと無医村に行けば学費が浮くとか聞いた」
 とお金がなくても医者になれる情報を集めだした。私もできるだけ協力して情報を収集した。
 そう思わせてくれる塾生だった。
 灘やラサールや東海の過去問を集めて練習する授業も彼女から始めた。そして、当然のように四日市高校の国際科に合格した。
 その頃、メールやファイルが普及し出したので私はさっそく
「家庭学習中に出た質問はなんでも送れ」
 と塾生に檄を飛ばした。私は中学生は5科目、高校生は英語と数学に対応できるのだ。ところが、そんなサービスも怠け者には何の意味もない。
 しかし、A子ちゃんはほとんど毎日ファイルを送ってきた。その質問の内容も勉強していないと出来ない質問ばかりで感心することが多かった。私は、A子ちゃんからどれほどの力をもらったことだろう。実は、白状するが高校の数学を指導しようと決めたのは彼女の影響が大きい。まさか、塾生に背中を押されるとは。
 英語に関しては、高校の時に英検の準1級に合格した。だから、英検1級の先生が必要になった。私は彼女の書いてくる英文の日記を読みながら添削をし始めた。これが、後にネットによる通信生の募集につながった。まことに、A子ちゃんが私に与えた影響は大きい。
 1級レベルのアドバイスをすると、たいていの生徒の方は
「何を言っているのか分からない」
 という反応だったけれど、A子ちゃんは私の意図することを即座に理解するため、授業も楽しかった。語彙や文法が正しければ良い英作文が書けるわけではない。
 当たり前だが、マナーやエチケット、採点官に対する思いやりが欠ける英作文は高く評価されない。学力だけではなく、そういう人間的な深みがないと見込みがない。浅い理解では京大などの難関大は合格できるものではない。

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