あり得ない転職者の話

アメリカ発の医療機器メーカーの日本での立ち上げに携わった時のこと。赤坂に2つ、大阪に1つオフィスを作り、都内に大きな研修施設を建設する事になっており、施設管理の担当者を採用しようとしていた時の話。

大阪オフィスは営業やエンジニアの立ち寄る場所であり、彼らは通常お客様の施設を訪問しており、オフィスにいつも来るわけでは無い。むしろオフィスにいるという事は仕事をしていないとも言える。

そうなると大阪オフィスに誰もいないと言う事もありうる。

ところがオフィスには郵便や宅急便業者を始めとしていろんな業者がやって来る。事務用品、水、コピー機器のメンテナンス等だ。

お客様や他の社員から電話が入ることもある。

また防火防災責任者も任命して消防署に届けなければならない。責任のある役割なので派遣社員にお願いするという訳にはいけない。


ということで大阪に大阪オフィスの総務的な仕事と他のオフィス関係を担当する正社員を採用する事を思いついた。

ところが採用活動を始めると中々期待している様な人が出て来ない。

施設管理の経験があって、総務も出来て、外資系なので英語も出来ないと困る。

実際、建設を計画中の研修施設はアメリカ本社の研修担当や設計事務所との連絡が欠かせない。

ところが日本の会社の総務の人は概して英語が出来ない。

外資系では施設管理を外注で丸投げしている所が多く、そもそも玉が少ない。


そんな中で出てきた候補が外資系企業から施設管理を引き受けている外資系企業に勤めている女性。

唯一問題になるかというのは、その女性が東京に住んでいること。

ところが面接をしてみると大阪に移れるとのこと。

「元々、関西が出身地ですし、親戚や友人も沢山いますので。」


そうなると話は早い。

入社時期について若干齟齬が有ったが、そこは人事が強引に早期入社を飲ませた。

と、一安心していたのだが。

入社日が来てオリエンテーションには予定通り東京で2日参加。

私もオリエンテーションで会社の概要や財務状況、規則について説明をしましたが、熱心に聞いており何ら心配することは見出せなかった。

そして、、、。


その電話は昼前に唐突に掛かってきた。

大阪の営業責任者からだった。

「今日からこちらに来るはずのXXXさんが未だ姿を見せないのですが、そちらに何か連絡が入っていますか?」

「いえ。朝一番の新幹線で大阪に向かうと言っていましたからもう着いているものと思っていましたが。今の所、連絡は入っていません。」

「そうですか。何か有ったのかと心配しているのですが。」

「携帯に電話してみます。また、連絡します。」


携帯に電話するも繋がらない。呼んではいるが。

人事に登録されている母親の家という電話番号に電話をするものの同じ結果。

人事部長とは、「電車に乗り遅れたかなんかかも知れないのでもう少し様子を見ましょう。」との結論になり大阪にもその旨を伝えた。

しかし、結果としてその日のうちにXXXさんが大阪オフィスに現れる事は無く。

そして翌日も。

流石にこれは尋常な事では無いと人事部長と東京の家へ。

これまた人事に登録されている住所には転出済みの部屋があるのみ。

人事から大阪の連絡先と知らされた電話番号に電話をするもこれも繋がらず。

母親の家の住所の所に行ってみたが区画区分がごちゃこちゃしている所で該当の住所が見当たらない。

近くの交番に尋ねるが、「家族や親近者からの問い合わせだったら訪ねて行くこともできますが、最近、個人情報の取扱いがうるさくて。気をつけてその辺りを見てみますが。」と、つれない返事。

取り敢えず名刺を残して何か分かったら連絡してもらうことに。


家に帰ってもテレビのニュース、新聞の記事が気になってしょうがない。

翌日、所在はとんでも無い所から分かった。

人事が念の為と彼女の元働いていた会社の人事に電話を入れたのだ。

最初は先方は何事かと相当に警戒していたが、経緯を話すうちに、「分かりました。こちらの方でも確認してみます。」と約束してくれた。

そして遂に所在が分かった。

「XXXさんは未だ当社に所属しています。」

⁉️

「業務の引受先の会社に出勤しています。」


その後、その会社の人事が本人に確認した所、「軽い気持ちで応募した会社に思いかけず合格して舞い上がってしまった。ただ会社に辞めることをどうやって伝えるかを考えている内に入社日が来た。そこで有給休暇を2日間取ってオリエンテーションに出席したが、大阪の住居も決まっていないし、どうしようかと思いながらも元の職場に通っていた。」とのこと。

流石に先方の人事部長も呆れていて、「厳重に処罰をします。」と言っていたが、彼らは人を派遣してなんぼの商売、クビにする事はまず無いだろう。


一方、こちらはリクルート会社にクレームをしたり、新たな候補者の募集と却って大忙し。

百戦錬磨のリクルート会社も、「こんなこと前代未聞です。」

そんなに頻繁に起こっては落ち落ち採用もしてられない。


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