フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第20話

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苗代は、ゆっくりと視線を私に戻した。

その目には、もはやさっきまでの威勢と余裕はなかった。


「君、まさか…」


「これに今夜の会話、全部録音させてもらいました」


「何だって?!」


「夜な夜な私にたかり、お金をせびり、体の関係を強要する。

   これは大学を懲戒免職じゃ済まされないですよ。

    立派な脅迫罪です。つまり犯罪」


「犯罪だと、馬鹿を言うなよ。ただ僕は君をからかったに過ぎない

  教え子のアルバイト先に顔を出すことが犯罪なのか!?」


「そのアルバイト先であなたがいくら使ったか教えてあげましょうか?

   39万円です。全て私が脅されて立て替えましたけど。

   それから先生、離婚されてませんよね?別居中でしょう。」


「何でそんなこと知ってるんだ!」


「調べました。お子さんは12歳と6歳、まだまだお金がかかりますね。

  どうして別れたなんて言ったんですか?

   奥様にバレたら困るから?こんな最低な行いが」


苗代は愕然として席に腰を下ろした。


「篠田、悪かったよ。俺はどうかしていたんだ。

   毎日、大学では大御所教授たちの顔色ばかりうかがって、

   青二才と馬鹿にされ…

   家ではカミさんが気が強くて、給料のほとんど持ってかれてなあ。

   言っただろ、助教授の給料なんて雀の涙だよ」


「だから、教え子を、私を脅すんですか?」


「君は、優秀な学生であるとともに側から見ると

   ウブで世間知らずに見える。だから、俺の言いなりに

  なると思ったんだ…」


「…最低…」


私は怒りに肩を震わせながら立ち上がった。


「もう、店に来ないでください。それから

   立て替えた分のお金、全部返してください」


苗代はうなだれたまま微動だしない。


「今後のことは私が決めます」


そう言い残すと私は店を出た。


時計を見ると終電はとっくに終わっていた。


私はため息をつき

都会の夜空を見上げた。

星の一つも見えはしなかった。


私は自嘲気味に笑った。


自分を居場所を壊すものを、やっつけたと言うのに

この虚しさは何だろう。


私は誰を信じればいいのだろう。



人気のない路地を横切った時だった。


背後から、すごい力で羽交い締めにされた。


そして細い路地に引きづられ倒された。


覆い被さる男は、ほかでもない苗代だった。


酒臭い息が私の顔に吹きかけられる。


私は顔を背けながら、彼を睨みつけた。


苗代に目は本気だった。

我を忘れたかのような目だった。


「出せ!!テープレコーダーを出せ!

   渡さないと、何するかわからないぞ!

   何ならここでやってやろうか。

   ホテルに行く手間が省けていいや、ほら出せよ!」


私は地面に思い切り頰を押し付けられた。

無数の小石が肌を突き刺し傷つけられた。


「早く出せって言ってんだ。

  この、カマトトぶったアバズレ小娘が!ナメんじゃないよ」


苗代は私のジーパンのファスナーを乱暴に下ろした後

脱がそうとするがうまくいかず、今度はセーターを捲り上げてきた。


「まあ、いいや。先にお楽しみと行こうかな」


私は悲鳴を上げた。


「やめて!!やめてよ!!」


「うるさい!!」


また地面に頭を打ち付けられた。



意識が朦朧としてきた。


何…これは

私…なんでこんな目にあうの?


去年の今頃は私はバイトとサークルに励む普通の女子大生だったし

私に今、乱暴しているこの鬼畜は

私の慕ういい先生だった…


どうしてこうなったの?


それとも

これが本当の私と彼なの?


私が見えてなかっただけ

いや見ようとしてなかっただけで


あの日


公衆電話の上に財布と携帯電話を

置き忘れていなかったら


見なくてすんだだけなのだろうか…


見たくなかった…こんな先生を


こんな目に…誰があいたいものか…


あの日の戻りたい


雨の夜の日に



カエリタイ…




遠くで微かに

聞き覚えのあるこえがした。


「オラ!!」


ドスの効いた殺気立った声だ。


でもなぜか懐かしさが胸に広がった。



その時


私のセーターを鷲掴みする手がほどかれた。




   





 

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