父さんにもしものことがあったら読んでほしい手紙(2)

前編: 父さんにもしものことがあったら読んでほしい手紙(1)
後編: 父さんにもしものことがあったら読んでほしい手紙(3)

8月中、会社をたくさん休んだし、お盆休みの間もずっと日赤に通って検査ばかりしていた。

小学校最後の夏休みの思い出にと、サチと約束していた山登りや海釣りにも行けなくなったよね。あのとき、父さんの意思とは無関係に周りが急に動き始めていて、ついていくのが精一杯なくらいに忙しくなっていた。肺がんになったんだという現実から目をそむけることができなくなって、後戻りはできないところまできていたんだ。

日赤に行くたびに血液検査をしたり、胸のレントゲンを何枚も撮ったり、肺活量を何通りかの方法で測ったり、ゼリーのようなものを胸に塗ってエコー検査もした。

造影剤を使ったCT検査もしたな。

CTというのは横になって体を輪切りにするように撮影する医療機器。造影剤は人によっては吐き気や動悸、頭痛など副作用が出て、まれに呼吸困難や意識障害に陥るらしいけれども、輪郭がはっきりと映るようになる薬らしい。先生からそんな説明を聞いて同意書に署名をしたよ。検査技師に促されるままにCTの上に横になって両腕をバンザイをするみたいに上げ、父さんが所定の位置にセットされると、看護師が、

「今から造影剤を入れますね。」

点滴の針から薬が体に入って、胸の真ん中あたりから下腹に熱いものがざざっと走った。多少ショッキングだったけど父さんは大丈夫だった。

MRIの撮影もしたよ。強力な電波を使って、体の中にある水分に作用して断層を撮影するらしい。

がんを早期発見するのに最適だというPET-CTという最新の機器での検査もした。PET-CTは検査が終わってから一時間、薄暗いリカバリールームで安静にしていなければならなかったので、回遊魚のように動き回ってばかりいる父さんには、とても長い待ち時間だった。

頭頸部・耳鼻咽喉科へ行って甲状腺の検査もした。

血液検査の結果を見た呼吸器内科の先生が甲状腺の機能低下を気にしたらしいんだけれども、耳鼻科の先生の診断でも異常は見あたらなかった。

1ヶ月の間に、11日間、日赤へ行って検査をしたよ。

父さんは、インフルエンザの予防接種を受けることさえ面倒くさいと思うくらいだから、これ迄こんなにいろいろな検査を受けたことはないし、受けようと思ったことさえなかった。総合病院に行ったこともなかったから、見るもの、聞くものすべてが目新しいのものだった。だから、日赤でどれだけ待っていても退屈はしなかったけれども、時々、ゴホゴホと疲咳き込んでいる人や、腕を抱えられてやっと歩いて人を見ると、あの人も肺がんなんだろうかと思ったりした。そして、ふっと息詰まるような不安を感じることがあった。

母さんに、そのことを話すと、
「普通の人は、人間ドッグに入って、高いお金払って検査するのに、あんたはな、がんのおかげで、全部、保険診療でできてるんやよ。」

母さんは強い。

「あんたは大丈夫やわ。」

笑顔で言う。

「悪運強いし。そんな気がするもん。」

父さんには、泣き言を言ったり、感傷的になったり、くよくよしている時間はなくなった。

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父さんにもしものことがあったら読んでほしい手紙(3)

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