【10話】初デート

前話: 【第9話】人生いろいろ
次話: 【11話】正しい社畜の落とし方

「彼氏と別れました」彼女は僕に向かって言った。


彼女の辛そうな顔

「やっぱり僕のせいなのかな?」

彼女は首を横にふった。彼氏とは日本に来てからずっと疎遠になってしまい、1年以上連絡をとっていなかったらしい。関係は冷え切ってしまっていたという。

ようやく別れる思いを伝えたというわけだった。

僕は複雑な気分だった。でも彼女は別れをつげて、僕の元に来てくれた。

彼女を受け入れることにした。

「ありがとう」彼女を抱きしめた。

カオの吐息が耳にかかった。

「好きだよ」僕の鼓動が高鳴る。彼女は自分の手を僕の手に絡めて歩き出した。

僕達の行先は決まっていた。ちょっと一目のない、あのベンチだ。

週末は片桐さんに頼んで、街に買い物に行かない?
カオ
いいですね!初めてのデート。

デートの約束を決めた僕は、とても嬉しかった。次の日、事情を知っている片桐さんに頼んで街に連れていってもらうことになった。

街に出た僕達は自由だった。誰がどうみてもベストカップルだ。

お互いの手を絡めた。彼女の微笑みがより輝きを増す。

二人でショッピングを楽しんだ後、アイスを食べた。自然ばかりだったから、久しぶりに街に出ることが、刺激的だった。東京よりは静かだし、圧迫感も感じない。

カフェに行って色々話し合う。無計画だった僕達は、急いで行く場所を考えた。そしてカラオケに行くことにした。

二人で初のカラオケ。カラオケはずいぶん久しぶりだ。国が違う人と一緒にカラオケに来るのは初めてだった。カラオケルームに入った僕達は、横並びに座った。「ケイは何を歌うの?」彼女が僕に肩を寄せる。

始めにマイクを取ったのはカオだった。そして日本のアニソンを楽しそうに歌い始める。

相変わらず彼女の日本語は外国人とは思えなくらい、完璧な発音だ。歌声も美しかった。

カオ
私が日本語を学ぶキッカケはアニメなんですよ!

他の国の人たちの惹きつけ、日本に興味を持たせることができる日本のアニソンは素晴らしいなと感心してしまった。素晴らしいものであれば、例え国が違う人でも納得させることができるんだと知った。

関心しつつも、曲を入れようとした瞬間、携帯がメッセージを受信した。

誰だろう?携帯の画面を見ると、高校生のあやかの名前がうつし出されていた。

無意識に変な汗が出る。

悪いことはしていなが、カオにみられないように、少し携帯の向きを変える。

メッセージには「今日の夜、会えますか?」と書かれていた。

この質問には答えられないな...。僕は彼女のメッセージは見なかったことにして、携帯のスイッチを静かに切った。

僕は何曲か歌った後に、僕が大好きなZARDの曲を歌うことにした。

彼女は僕が、女性の歌で、昔の歌を歌っていることに、不思議そうな顔で見ていた。


気が付くと、時計は6時をさしていた。

片桐さんとの待ち合わせ場所に少し足早に向かう。

僕達の初デートは大成功だった。カオも満足そうに、微笑む。

「また行こうね。」

彼女の事をもっと知ることができたし、僕もデートの本当の楽しさを知った。デートはお互いの良いところを知るための機会だと思うし、そうあるべきだと感じた。

シオンについた僕は、廊下でカオと別れて部屋にベットに転がる。

露天風呂に行こうかなと思い、服を着替える。

夜入る露天風呂は静かだし、冷たい夜風が心地の良い。しかしその中で暖かいお湯につかるのはなんともいえない気持ちの良さだ。露天風呂から覗く夜景も最高なのだ。

ドアを開け、広く色々な絵画が飾られた廊下を鼻歌を歌いながら歩いた。デートをした後だから機嫌は絶好調だった。エレベータに乗る。ドアが開き少し歩きだした時、エレベータの前にある椅子に、女の子が携帯をいじりながら座っていることに気がついた。

その子はあやかだった。『まずい...。』と思ったが、気が付いた彼女が椅子から腰上げて、近寄ってきた。


あやか
どうして、返信してくれなかったんですか...?


彼女は上目遣いで僕を見る。彼女の大きな瞳が潤んでいた。



続きのストーリーはこちら!

【11話】正しい社畜の落とし方

著者の前田 啓太郎さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。