某K店の顛末


 今から約20年前、テレビ番組のスポンサーで有名だった某K宝石店の経営破綻と、これに伴う多数の被害発生という事件は記憶に新しいところであろう。恥ずかしながら、この私もその被害者の一人であった。ここでは、今後の教訓のために、私が記憶している限りのことを書いてみる。


 確か、今から20数年前、まだ東京に引っ越して数ヶ月のときだった。近所の百貨店内をうろついていたとき、突然、「きれいなお姉さん」に声をかけられた。聞くと、宝石に関するアンケートに答えてほしいとのことで、アンケートぐらいならまあ良いかと思い、私は聞かれるままに答えていった。


 アンケートに答えていくうち、他の「きれいなお姉さん」方とも話し込んでしまい、徐々にその場を逃げ出せないような雰囲気となり、宝石の購入を強く勧められた。話の要点としては「今は必要ないかもしれないが、いずれ必要になる」、「5年後に売値で買い戻す特約がある」ということで、私もこれらの言葉にほだされ、100万円ぐらいする宝石をローンで購入してしまったのである。その際、私は「5年後に売値で買い戻すと言うけれど、購入者全員が買い戻しを申し出たらどうなるのか」と質問したが、先方は「まあ、そんなことはないでしょう」と口を濁していた。


 こうして、買うつもりもなかった宝石を突然購入し、ローンを抱えることとなったが、5年後に買い戻してくれるというのだし、いずれ必要になるだろうから、まあいいかと思って、その後、コツコツとローンを支払い続け、必要になる時期をじっと待っていた。


 購入してから数年後、その間、その宝石が必要になる事態とはならなかったのであるが、ある日テレビを見ていたら、「K宝石店経営破綻」、「買い戻し特約適用されず」というニュースが流れてきた。私はこのニュースに狼狽した。そして、同店の本社のある横浜市で債権者説明会があるというので、慌てて駆けつけた。


 会場につくと、すでに大勢の人でいっぱいであった。私は会場に入れたが、入りきれない人も多数いたらしい。記憶している限り、会場の壇上には消費生活センターの人と、弁護団が座っており、状況と今後の対応について説明があった。

 説明によれば、K店は破産しているので債権請求できないが、同社が経営破綻の可能性があるということを知りながら引き続き同社に加担し、被害を拡大させてしまった信販会社を相手に裁判を起こしていくということで、原告に加わりたい人は手続きしてほしい、とのことであった。

 私自身は状況がよくわからなかったが、単純にお金が戻ってくるということではないということだけはわかった。しかし、面倒なことに巻き込まれたくないと思い、結果的にはそのまま何もしなかった。

 一つ、この説明会で印象的なことがある。説明会の終了直後、一人の青年が突然壇上に上がり、「この怒りを誰にぶつければいいのですか」と叫んだのである。弁護団は「我々は状況を説明しているだけだから・・・」と返答したが、その後、その青年は「Kの社長、○○○・・・」と追い打ちをかけるように叫んでいた。私はその様子を見て、ちょっとやりすぎじゃないかと思ったが、今思えば、彼は被害者の気持ちを代弁していたのである。


 この事件は被害者は全体で10万人はいると言われ、全国で計38の弁護団が作られ、各地で提訴された。その後、裁判所からの和解案があり、この事件は集結するのだが、一方、私の方では、念のため、購入した宝石を別の店で鑑定してもらったことがある。鑑定によれば、一応は新品で買えば100万ぐらいはするが、買い取るとなると10万ぐらいしかつけられない、との結果であった。


 この事件は信販会社の責任も問われ、クレジット販売における問題点を露呈させることとなったが、私が思うに、もっと本質的なこととして、そもそも、宝石というのは買い戻し特約をつけて売るようなものではない、ということである。

 先程述べた通り、100万で買った宝石が数年後に買取額10万である。宝石というのは、人の手につけた瞬間、価値が大幅に下がる。それを、5年後に売値そのままに買い取る、というのは、やはり、無理があろう。

 私が購入する前に店員に発した質問、「購入者全員が買い戻し請求したらどうなるのか」という質問をもっと突き詰めれば、この商法の矛盾をつくことができたであろう。店員も「そういうことはない」と答えていたが、これがK店の読みそのものである。

 しかし、世の中が不景気になり、K店の読み以上に買い戻し請求が増えたらしく、それが経営を圧迫し、それを挽回するために、買戻特約を付けたままさらに売上を伸ばさないといけない、という矛盾に陥ったらしい。

 私としての、この事件での教訓は以下のとおりである。これも、東京に行って失ったものと得たものである。


●買い戻し特約は危険である。もし、買戻特約がついている場合、具体的に何年先に、売値の何%で買い戻すかをよく確認する。その何年か先に、販売店が存在しているとは限らない。


●今、必要ではないが、いずれ必要になるだろう、というものは、いつまでたっても必要にならない。必要なものとは、今、必要なものである。この時も「今必要でないものは、必要でない。本当に必要になったときに考える」ときっぱり断るべきだった。


●店というのは、世間的に「有名」だからといって、必ずしも良い営業をしているとは限らない。

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