自動販売機で初めてジュースを買った時の話

小学生の間、お小遣いはずっと1日50円だった。

一年生の頃は、毎日学校から帰るとお母さんが50円硬貨を手のひらに乗せてくれた。僕は毎日その50円硬貨を握りしめて、近所の駄菓子屋に駆け込み10円の飴やら、20円のせんべいなどを買って食べた。

それが、3、4年生になると確か月曜日に300円をまとめて渡してくれるようになった。一週間のうち、1日はお金を使わない日として、週に300円ということだった。

初めて手のひらの上に、3枚の百円硬貨を乗せてもらった日のことを僕はよく覚えている。それは10円や50円と違って、ずしりと重い?ように感じられ、豪華?な桜の花の浮き彫りが当時の最高額硬貨の風格を感じさせるようだった。

その百円硬貨を一枚だけ手にしていつもの駄菓子屋の前にある自動販売機でHi-Cオレンジを買うことを決めた。毎日50円しかなくて、それを貯めておくなんてことは思いもよらなかった僕は、大人に買ってもらう時以外、その自動販売機のジュースは自分とは関係がない高嶺の花そのものだった。

その大人の象徴である自動販売機の前に僕は一人百円硬貨を握りしめて立ち、誇らしげに?並んでいるジュースの列を見上げている。それらは、ブーンと低い音を立てて僕を歓迎している。

大切な百円玉を入れてボタンを押す。ゴトンと大げさな音をたてながらジュースが出てくる。冷たいHi-Cオレンジを手にとって、帰り道歩きながらお腹ががぶがぶになるのもかまわずにそれを一気に飲み干した。

二日分のお菓子代をこれに費やしても、大いに満足だった。今までは大人と一緒でないと飲めない自動販売機のジュースを飲んだのだから。やっぱり20円の棒ジュースとは違う。何よりも自動販売機のジュースは冷たい。この満足感は何者にも変えがたい。

しかし、毎週300円のお小遣いでは、毎日こんなことをすることはできない。好きな時に好きなだけ自動販売機のジュースを買って飲めるようなお金持ちの大人に早くなりたいと思った。

それから、30年以上の時が経ち、自動販売機のジュースは130円になり、僕は好きな時に好きなだけそれを買って飲めるようになった。

駅のホームで何気なくジュースを買っている刹那、昔のこんな気持ちを思い出した。Hi-Cオレンジはもう売ってないので、変わりにファンタグレープを買って飲んだ。

一気に飲み干すと、あの頃と同じようにお腹ががぶがぶになったが、あの頃のような満足感はなかった。

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