【第24話】離れて暮らしていた父の介護のこと、死んだときのこと、そしてお金のこと。
最後のお散歩
夏が過ぎた頃、なぜか父の食べっぷりが復活した。
何食も食べない時もあったのに完食が増え、寝たきりが多かったのに車椅子にも乗れるようになった。何が原因かは分からなかったが、とにかく嬉しかった。
体調もだいぶ安定してきた10月、外出許可がおりた。
とはいっても、出かけられるのは1~2時間程度。それでも嬉しい。
当日はびっくりするくらいの快晴。しかも10月にしては異常なくらい暖かく、風はそよぎ、湿度も少ない「パーフェクト」なお出かけ日和だった。
私達は、父の車椅子を押しながら、神社をぐるっと周り、いつもより少し遠出し、父が好きだった和菓子屋に寄ってきんつばを買い、公園でスカイツリーを眺め、近所にあったパン屋へ行き、父が選んだピーナッツコッペパンを買った。パン屋さんの匂いって幸せだよね。
施設に戻り、デイルームで一緒にお昼ご飯を食べた。
父は完食し、さらに買ってきたパンも完食した。美味しそうに食べた。
きんつばは、さすがにお腹いっぱいで無理そうだったので、また近いうちに行ってまた買おうね、といって持って帰った。
天候、父の体調、施設の都合等がなかなか合わず、近いうちに、は叶わなかった。
そして、父はまた次第に食べられない時が増え、12月、ついに再入院することになり、施設に戻ることはなかった。
この「最後の散歩日」は、今でもまるで映画を見てるかのように脳裏に刻まれている。
雲一つない青空、強い日差し、公園の草の匂い。
こんなベタでよいのか、と思うくらい幸せな時間だった。
まあ、思い出補正はかなり強めなんだろう。
よい補正をかけてくれたな、誰だか知らんがありがとう。
つづく
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