世界旅後手持ち300ドル、家族も友人・恋人、時間もお金もすべて失い失意のまま帰国したバックパッカーが自分の夢を叶えてきた記録(13)

告白

「ケイシー!どうしたんだ、こんなギリギリの時間に来て!今日は寿司ナイトだから皆すでに準備にかかってるんだぜ!普段は誰よりも早く来る君らしくない!」

BENIHANAのキッチンの扉を開けたとたんにメッシの怒りの声が飛んできました。

作業台の上には大量の巻き寿司が巻かれ、奥のコンロ前ではラミエロが卵焼きを作る様子が見えます。ダルウィンやサービスの女の子達の姿は見えませんが、おそらく表のレストランの飾りつけをやっているのでしょう。

「ええ、ええ・・・ごめんなさい」

ケイシーの力なくうなだれる様子を見てメッシは異常に気が付きました。

「どうしたんだ?何かあったのかい?」

細身の長身をかがめてケイシーの顔を覗き込むので、思わず抑え込んでいた涙がぶわっと溢れだしてきました。

「な、なんでもない」

「なんでもないわけないだろう。いきなり泣き出したりして」

ケイシーがか細い声でつぶやきながら顔を背けると、メッシは驚いてそう言いました。でもこのまま、メッシを前に泣き続けたら何もかもを話してしまいそうです。

「後で話すね。私、今から着替えるから!」

そう言い放ってケイシーはキッチンにある小さな倉庫の中に逃げ込みました。深呼吸をひとつして気持ちを落ち着かせると、BENIHANAの暖かい空気にやっと心がなじんできました。のろのろとシェフユニフォームに着替えて引き戸をガラリと開けると、外には待ち構えていたようにメッシ、ダルウィン、ラミエロが腕を組んでこちらを見ていました。

「メッシに聞いたよ。君、突然泣き出したんだって?」

ダルウィンが心配そうにこちらを見てきます。

「何があったのかい?」

「話して楽になることもきっとあるだろう?」

ラミエロも言います。三人のシェフの優しい言葉に、ケイシーはまた泣き出しそうになるのをぐっとこらえて言いました。

「ええ・・実はね。私、ここの仕事をやめなくてはならないみたいなのです」

「えっ?!」

三人が三人とも驚き、ケイシーを見返しました。

「それも、今週いっぱいで。ホテルの決定みたいなのです。」

「それはシェフジェマールが君に言ったのかい?」

ケイシーが話し終わらぬうちにメッシが畳みかけてきます。

「はい。シェフとも話をしました。でも私はフードチェックさえまだでどこにも行く場所がないことを話したら少し、考慮をしたいから時間をくれってことでした・・」

「信じられない。そんなの初耳だ」

本人にだって寝耳に水のお話しです。とりわけ、最初に約束した「がんばればちゃんと正式な雇用条件を結べるように取り計らってあげよう」というイマドの言葉を信じてきたケイシーにとっては、あまりの衝撃なのでした。

「ジェマールはなんとかすると言っていたのだね、ケイシー?だったら彼を信じて、待とう」

ダルウィンが真剣な顔に屈託のない純粋な瞳を浮かべてそう言いました。そこにあるのは今のケイシーには失われてしまった、純粋に人を信じるという希望の光でした。

寿司ナイトの開店時間が迫っていたのでそれぞれが持ち場に戻りましたが、キッチンの裏で寿司を補充しているときにも、味噌汁の追加を作っている時にも、ケイシーの瞳には思い出すたびにじわりと涙が溢れてきます。ふと気が付くといつも冷静にゲストの対応をしているメッシも、たまにキッチンに帰ってきてはぶつぶつ何か独り言をつぶやいては壁に向かってこぶしを突き出しているのでした。

「シェフ、何があったの?」

みかねたジェジェが黒髪のポニーテールを揺らして近づいてくると、そう聞いてきました。

「今夜は寿司ナイトで忙しいっていうのに、メッシは取り乱しているしダルウィンは何も教えてくれない。あなたはあなたでキッチンの隅で泣いている。どういう状況なのよ」

「ごめんなさいジェジェ、私のせいなの」

「えっ、あなたのせいってどういうことよ?」

「詳しくは終わってから話すから」

自分のせいで大切な寿司ナイトを、BENIHANAの一日を台無しにしてはいけない。

そう思いなおすと、ケイシーは深呼吸をひとつして目の前にあるサラダの補充を始めました。


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