第1章 青蒼色の蕾

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これは東北の小さな田舎町で生まれた私の昔々の物語。青蒼色の蕾。青くて蒼くて固い蕾。未熟な私の恋は青蒼色の蕾のように、どんな華が咲くのか未知。青春の全てで恋をし、家族をも巻き込んで青蒼色の蕾は華開いていく。


私は四人兄弟の長女。自営の父母はいつも仕事に追われていて、夜遅く仕事を終える父母を待っていてはお腹が空いて耐えられず、ちびママの私は兄弟四人+祖父母分の夕飯を作り宿題を見る。お風呂は全員で入って下の子の面倒を見る。そんなことは当たり前だと思っていた。いつでも「お前は長女だから。」と言われ、その期待にこたえなければと思うところもあったのかもしれない。反抗することもなくいい子ちゃんだったと思う。

時々辛いことがあっても、親に心配をかけてはいけないと思う気持ちが強く、日記を書くことを習慣にしていた私は、日記の中だけに本当の自分の思いを綴ることで気持ちを整理していた。一人、気づかれないように布団にもぐって声を殺して泣くこともあった。私は、両親にとっては頼りがいのある手のかからない子供だったのだろう。


私の暮らす街はそのころから過疎が進んだ街。私の小学校の同級生はたったの7人。

小中が一緒になった学校で、中学校になると周辺の分校から通う人が新しく増えるのだがそれでも中学の同級生はたったの10人。まるで全員が家族同然。お互いの家の事情もだいたいわかる。そんな狭くて深い特殊な関係の中で小中学校を過ごした。


地元に高校は一つしかない。そのため、町中のほとんどの生徒がここに入学する。過疎が進んでいることは顕著で、町中の中学生が集まっても、私の同級生はたったの140人程。しかし、私にとってはたったの10人から突然に140人の同級生が出来たのだから、大きな変化だった。中学の同級生もほぼ全員が地元の高校に進学した。

高校生活は未知のものに溢れていて楽しかった。友達も増え、おしゃれをすることも覚えた。


私はクラスのくじ引きで応援団の仕事をすることに決まった。最も皆がやりたくないと思っていることだった。朝練、昼練があり校庭に立たされ大声を出す練習をする。立っている周りを怖い先輩がぐるぐると回り、びくびくしながらの発声練習。こんなことが楽しいなんて到底思えなかった。

一年生の終わり。私はその中の一人の先輩のことが気になっていた。誰より怖いと思っていた先輩だったのに、誰より一生懸命私達に教えてくれていることに気が付いたからだ。先輩がいる練習だから、頑張れるようになった。先輩が時々ほめてくれる時に見せる笑顔を見ると胸がとくんと高鳴るのだ。

先輩のことが気になり、つい目で追ってしまう。先輩が同じ電車に乗って帰ることに気が付き、それだけでも嬉しい出来事になった。


しかし先輩には一つ年上の彼女がいて、時々二人で歩いて帰るところを見かけた。白いコートが溶けて一つになってしまいそうな位色白で、笑うと抱きしめたくなる程の愛くるしい顔をした美しい人。先輩の後ろから少し遠慮がちに、先輩の腕に手を入れて歩く人。完全なる片思いだった。

初めての恋は初めから苦しくて切ない恋だった。


春、先輩の彼女は、高校を卒業すると東京の会社に就職した。先輩と私は、応援団の活動の中で仲良くなっていき、学校から一緒に帰ったり、駅のホームでおしゃべりをするようになった。

そのうち、少しずつお互いのことを話せるようになり、東京の彼女のことも話してくれるようになった。何でも話してくれることは嬉しかったが、彼女の話を聞くたびにズキンズキンと胸の奥に痛みが走るような気持ちになった。

先輩の家は、電車を降りて駅のすぐ前だった。私の降りる駅の次の駅。私達はいつしか、先輩の家で一緒に勉強したりおしゃべりするようになった。私にとっては夢のような時間だった。先輩は母子家庭。お母さんはいつも仕事をして不在がち。家の中には、おばあちゃんがいつも一人で留守番をしていた。先輩に彼女がいることなど忘れてしまう位に、私達は楽しい時間を重ねていった。友達?親友?関係に名前などつけなくても良かった。今、先輩と一緒にいることが私には大切だったから。

冬休みに入ってもわざわざ先輩の家に行き一緒に勉強して過ごした。ところが、お正月休みが近付くにつれて先輩は落ち着かなくなった。東京に就職した彼女が帰省するからだ。先輩は「会いたいと連絡をしても思うように返事がこない。」と悩んでいた。私はたまたま先輩の部屋で彼女の連絡先を知ってしまった。


心臓がバクバクした。指が震えた。私は先輩には内緒でその番号に思い切って電話をした。

「あの...私S君の友達なんです。突然すいません。でも伝えたくて。S君ずっとあなたに会いたがっていて、ずっと待っているんです。だから会って欲しいんです。お願いです。あなたのことをずっと想っていて辛そうで。だからお願いです。S君に会ってください。」

相手がどう思おうと、とにかく伝えたいことだけ話して電話を切った。まだ震えが止まらなかった。それは、心の震え。先輩を好きな私の気持ちが泣いて震えていた。

次の日先輩から「彼女から連絡があって、会う約束が出来たんだ!会えるんだよ!」と喜んで電話があった。これで自分の気持ちにけじめをつけられると思った。私は必死に動揺する気持ちを隠し、先輩と一緒に喜ぶふりをした。


あと二日で冬休みが終わろうとしていた。先輩とはずっと連絡をとっていなかった。もう普通に話も出来ないかもしれないと思うと怖くて連絡できなかった。

すると先輩から電話が。

「彼女から会おうって連絡があって俺一人で舞い上がってた。待ち合わせ場所で待ってたんだ。待っても待っても彼女は待ち合わせ場所に来なかったんだ。」

こんな時なんて言えばいいんだろう。あんなに素敵な人。先輩の心を掴んで苦しめる美しい人。

「でも、俺気が付いたんだ。彼女とはこれで良かったんだって。だって俺、なおから全然連絡がこなくて、いつもいつも傍にいるなおがいなくて、あれ、俺すごく寂しいって思ってるって気が付いたんだ。なおはいつも俺のこと本気で心配して、俺の為にいろいろしてくれてて。卒業まであと少ししかないけど、なお、俺と付き合って下さい。」

驚いて声が出なかった。諦めようって必死に気持ちを抑えていたのに。


私達は残された時間を前にも増して一緒に過ごすようになった。私は、初めての恋に夢中だった。

先輩との思い出は、宝石箱に入っている宝物のようにキラキラしているものばかり。

私が卒業した小学校の近くの神社は二人のお気に入りのデート場所だった。高台にあって夕日がきれいな場所。杉林の中に長い石段があり、それ以外には何もない場所だったけど、いつも長い石段を登りながら、沢山おしゃべりをした。ただ一緒にいれれば楽しくて、先輩と話せるだけで嬉しくて。

今日の先輩は少し様子が違う。神社の入り口に着くと、先輩は改まって、

「俺もうすぐ卒業だけど、なおと離れたくない。だから今日、二人だけで結婚式をしよう。」

そう言って私の手を取っていつも歩く石段を歩き始めた。

「この石段はバージンロードだよ。」

みんなの読んで良かった!