新・白いご飯に合わないおかず

 クリームシチュー、おでん、お好み焼き。白いご飯に合わないおかず御三家として名高い彼らがその地位に押し上げられてから、随分と経ちます。確かに、彼らはメイン料理でありながら食材や味付けの点から白米には合い難く、最初にそのことに気付き表明した人物は称賛されるべき第一発見者と言えます。事実、その人物の意見を支持する多くの人々によって御三家の彼らは今日も、如何に白いご飯に合わないおかずであるか力説されています。然し、そうして元々目立ちやすい料理でもある彼らが力説され続けている裏で、出過ぎず引っ込み過ぎずのポジションを保ちつつちゃっかりと定食としてメインメニューにまで成り上がった、明らかに白いご飯には合わないであろうおかずが、まさに秘密裏に存在しているのです。

 私が初めてその料理に出会ったのは、かれこれ8年前でした。

 ランチタイムに訪れたとある中華料理屋さん。こちらは既に何度も訪問しているお店で、その日は表の看板に見たことの無いメニューが表記されていました。

『○○定食750円』

定番メニューである酢豚定食や回鍋肉定食等と並んで表記されるそれには、『お勧めの新メニュー』というコメントと料理写真が添えられています。艶やかな飴色は如何にも白いご飯が進む一品といった風体。迷わずそれを注文することに即決し、弾み調子で店へ足を踏み入れました。注文の後、程なくしてやってきたそれはやはり、全体が艶やかな飴色をした甘辛さを連想させる装い。立ち上る香りからも白米の進む味付けに違いないと確信されます。早速、メインのその料理を口にすると、食材にしっかりと絡む酸味のある甘辛ダレが忽ち口中に広がり、まさに白いご飯が欲しくなる逸品と思われました。

(美味しいっ!)

 握った箸は忙しない動きへ豹変し、料理はみるみると減っていきます。

(あ~、美味しかった)

 あっという間に食事を終えたその時、目の前の茶碗には大量に残る白いご飯がありました。

(?)

 疑問に感じたものの、その日はあまり気に留めること無く店を後にします。

 そして翌日のランチタイム。すっかりと味を占めたのか、店先の看板でそのメニューを目にするや否や、気付くとその日も同じ定食を注文していました。程なくしてやってきたそれはやはり、一面が艶やかな飴色で昨日の甘辛ダレを直ちに回想させる逸品。

(そうそう、これこれ)

 と、未だ二度目の対面にもかかわらず、つい馴染み調子になります。意気も揚々に口に運んだそれは、やはりその日もしっかりと酸味のある甘辛ダレで覆われていました。

(やっぱり美味しいっ!)

 ものの数分で食事を終えると目の前の茶碗にはまたしても、随分な量の白いご飯が残されています。

(何で?)

 料理の味付けは濃い目であり、実際、サービスで提供されるジャスミンティーは何度かホールスタッフさんが継ぎ足しに来てくれる程、多量に摂取していました。不可解な疑問を残したまま、結局はその日も深く考えること無く過ごします。

 三日目。馬鹿の一つ覚えとは良く言ったもので、その日のランチでも性懲りも無く同じ定食を注文する自分がいました。程なくしてやってきたそれは、ご多分に漏れず飴色甘辛ダレで光っています。

(やっぱりこれよね)

 最早、何様かといった馴れ馴れしさはさておき、早速それを豪快に口にし始めます。順調に減り続けるメイン料理。頻繁に空になるジャスミンティーの入ったグラス。度々ジャスミンティーを継ぎに来るホールスタッフさん。そしてメインが残り僅かになった時、またしても白いご飯だけが進んでいないという現状に、流石に手が止まりました。

(何で?)

 しつこい様ですが、メインのそれは酸味ある甘辛ダレの濃い味付けで、白いご飯が進むこと間違い無しの逸品なのです。原因を突き止めるべく、メインのその料理を検証するよう各食材をゆっくりと咀嚼してみることにしました。すると、主力でもあるとある食材を噛み砕いた瞬間に、白いご飯が進まない理由が判明します。

(カシューナッツか!)

 そう、『鶏肉とカシューナッツの炒め』は、白いご飯には合わないようなのです。確かに味付けは合う訳ですが、幾ら甘辛ダレを絡めようが幾ら中華鍋を高くして振るおうが、相手はカシューナッツ。しかも彼等は皆、丸々一粒でのお姿。ひょっとしたら、彼等カシューナッツが細かく砕かれタレの一部のような扱われ方であれば、白いご飯との違和感も解消されるのかも知れませんが、それでは『鶏とカシューナッツの炒め』では無く、『鶏のカシューナッツ炒め』で、似て異なる料理です。試しに、カシューナッツを避けた一口大を口に入れてみると、直ぐ様白いご飯が欲しくなりました。とは言え、カシューナッツの無いその一口は、どこかつまらない様にも感じられます。 

 そんな訳で、『鶏とカシューナッツの炒め』は白いご飯には合わない。然しながら『鶏とカシューナッツの炒め』は間違いなく美味しいと、勝手ながらもそう表明したいのでした。 

―完―

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