サンタさんいらっしゃ~い

 10月中旬、市街を歩いていた時のことです。

 目に入った花屋のショーウィンドウ。その装いは、既にクリスマス仕様になっていました。早まる街中のクリスマスムードにもすっかり馴れ、ぼんやりウィンドウの中を眺めます。リボンやベルで彩られた大きなクリスマスツリーの傍らには、高さ30㎝程のサンタクロースが二体、並んでいました。一体は胸を張り頬骨を高くして朗らかな表情を浮かべています。実に、サンタクロースらしい印象です。が、もう一体は前屈みの姿勢で眉間に皺を寄せた陰鬱な表情を浮かべていて、思わず後退りしました。

(何があった?)

 当然、そんな疑問が生じます。よく見ると、湿っぽい雰囲気のそのサンタは右脇に女の子の人形を抱えながら大きな袋を背負っています。パツパツに膨れたその袋からはオモチャが溢れ、鳥の縫いぐるみや木馬が飛び出していました。

(来年は酉年だっけ)

 そんなことを思う中、ふと、

(もしかしたら、このサンタは人が良いのかも)

 と思い至りました。例えば、子供達のプレゼントの要望に応じていたとしたら。まずは事前に、リクエストリストなるものを作成したはずです。勿論、近年はサンタもPCで作成していますから、リストが仕上がると同時にかすみ目も仕上がります。そして、こさえたかすみ目で収集を開始させるリクエストのその内容とは、「リカちゃん人形」や「キョロちゃん」ではなく、「キュアマーメイドの人形(プリキュア)」や「おもちゃの缶詰限定キョロちゃんマスコット」等と、昨今は更にややこしいのです。その後、リクエストの変更や場合によってはクーリングオフという込み入った処理に振り回されて迎える当日。疲労困憊の身体に鞭を打ちつつ、一つ一つ配ることになるのです。眉間に皺の一本や二本が入るのも、雪車に鞭を仕込んでいる企図にも納得です。

 片や、もう一体の陽気な表情のサンタは右手に箱を一つ提げ、左腕に筒状のものを一つ抱える軽快な装いです。また、両者のプレゼントは美しく包装されている為に中身は不明ですが、持ち方から察して箱の方はホールのケーキかと思われます。となると筒状の方はシャンパンといったところでしょうか。然しながら、辛辣な面持ちのサンタを他所に上機嫌な表情を浮かべているというこのエキセントリックな様子から、その実、手にしているのは「折詰めの寿司」と「一升瓶」で、寿司屋で一杯引っかけてきた帰宅途中のサラリーマンか、という新たな憶測が浮上すると共に、ついつい、そんな時代に思いを馳せる自身も浮上しました。

 いつの間にか、辛辣な面持ちのサンタが不憫に思えてきました。せめて、このサンタが我が家の付近を回る際は、家に寄って一息入れていって欲しいものです。コーヒーはインスタント、更にお茶菓子はミックスナッツ(母の嗜好品につき常備)、または甘納豆(ナッツ同様)位ですが、炬燵で一服していって下さい。序でに、炬燵布団を顎(髭)まで被った状態にしてうたた寝するのもお勧めです。気持ち良さにうっかり寝過ごしてしまうのでは、という心配なら無用です。物珍しさやら不信感やらで両親が陰から様子を窺っているはずですから、小一時間したら彼等に起こして貰いましょう。私はきっと一緒になって寝てしまうので、あてになりません。無論、こんな私に礼などを置いていく必要はありません。プレゼント?嫌々、結構です。リクエスト?嫌々、そんな・・・。まあ、結婚指輪を貰えると幸いではありますが。嫌々、贈り主はどなたでも構わないのです。働き者で主導権を安心してお任せ出来る方であれば・・・ん?サンタさん、眉間の皺が増えましたかね。

―完―

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