Nさんへ

24か25の時だ。ポケットには60円しかなく、上野公園の横にあるマックで100円のハンバーガーも買えなかった。
小さなトランクを椅子がわりにして座ってた。
トランクには、離婚して家を出るときにかき集めた、しょうもないものしかはいっていない。
漫画喫茶に泊まる金もなく、夜は上野公園のベンチか階段で寝た。
週末にくるクリスチャンの炊き出し以外は、賞味期限のきれた弁当やおすそ分けが主食だった。
この状態から社会に戻るのは難しい。綱渡りで落っこちたピエロがもう一度綱渡りをするくらい難しい。
結婚生活の間にできた借金から逃げ回り、なんの当てもないからなおさらだ。

一、二ヶ月そんな生活をしていたある日、トランクの中の隅に、昔の職場の上司の電話番号のメモを見つけた。
一緒に仕事をしてたころに、飯を食ったり、麻雀をやったりしてた、50過ぎのNさんだ。
本当なのか嘘なのかよく分からない経歴を持っていて、分厚い手をしていたのが印象に残ってる。
私は金を借りようと電話してみた。
「お~久しぶりだな。どうしてる最近?」
明るく話してくるNさんに金の話を切り出せずにいた。
「元気にしてますよ。今度飯でも食べにいかないですか?」
「おお、いいよ。今日の夜空いてるけどどうだ?」とNさんが言う。
「大丈夫です。それじゃ今日、目白にいきますね。」
金のことは切り出せないまま公衆電話を切った。
当時の私には隠すほどの恥なんてないだろうと今は思うが、
公園の水道で体と服を洗い現状がばれないように取り繕った。
それから目白まで数時間かけて歩いた。

夜の7時ころに目白の駅前で会った。
「おぅ久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「どっからきたんだ?」
「上野の方からですね。」
「そうか、んで今日は帰るとこあるのか?」
そういわれて一瞬ドキッとしてから答えた。
「家に帰りますよ。」
「まぁサウナでもいこう。」
そういってNさんはタクシーを止め、池袋の行きつけのサウナに向かった。
サウナについて、風呂にはいり、サウナにはいり、飯を注文した。
サウナの食堂なのでたいしたものはなかったが、その時の私にはご馳走だった。
金の話は一行に切り出せず、世間話のようなものをしていた。
食事がすすみ、酒もすすんだが、酔えなかった。
しかし、金を貸してもらえなければ、社会に復帰することなどできない。
「Nさん・・・。」
思い切って言い出そうとした私の声をNさんは遮った。
「いいよ。お前のことは99%わかってるから、それ以上言うな。」
私は呆気にとられ、それから、ビールを飲んだ。
しかし、本当に何を言いたかったのかわかっているだろうか。
もう一度私は切り出した。
「Nさん・・・。」
「だからお前のことはわかってるっていっただろう。いくらだ?」
私は5万円借りた。
「絶対これ返しますから。」
「返さなくていいよ。お前が俺と同じ歳になったときに、同じことができる人間になればそれでいい。」
私はなにも言うことができなかった。何か分からない涙がでた。

翌日、Nさんと別れ、私は地方旅館の住み込みの仕事にありついた。
Nさん、もうあれから何年もたつけど、全然たどりつけてないよ。

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