もうすぐ高校2年生になる次男。机に置いてあった作文に、母親の私はつい惹きこまれて…

 田中さん


 いつからだろうか。田中さんと敬礼を交わすようになったのは。いつからだろうか。田中さんとジャンケンをするようになったのは。

 田中さんがこの学校にやってきたのは、去年の夏休みだっただろうか。新校舎の建設が始まると同時に、彼は警備員としてやってきた。最初の出会いは鮮烈だった。グラウンドに行くのに、工事をしている場所があったので、回り道をしなければいけなかった。彼は警棒を使って案内してくれたが、僕はそれを見て、勘違いをして立入禁止の旧校舎に入ってしまい、先生にこっぴどく叱られた。

 それ以来、しばらく僕は、ほとんど田中さんに挨拶をすることもなく過ごしていた。しかし、毎日丁寧に挨拶をしてくる田中さんを見て、「この人は優しい人だなあ。」と感じ始め、同時に親近感が湧くようになった。

 ある時、友達と下校する時に、ふざけて田中さんに敬礼をすると、敬礼をやり返してくれた。その時の嬉しさは今でも覚えている。

 毎日田中さんと敬礼をしていうるちに、向こうから敬礼をしてきたり、敬礼をすると見せかけて、しなかったりなど駆け引きを楽しんだりもした。田中さんが校門にいない日は、がっかりするぐらい、敬礼のやり取りは楽しかった。

 最近は、次のステップとして、ジャンケンをするようになった。僕はいつも朝ギリギリに学校に来ているので、ジャンケンをする暇が無い時もあるが、できる限り毎日行っていきたいと思っている。今のところ、僕は彼にジャンケンで負けたことがない。

 僕が田中さんと仲良くなっている間に、旧校舎は壊され、新校舎もだいぶ出来上がってきて、相当な月日が流れたのを感じる。全ての工事が終わり、新校舎が出来上がった時には、きっと田中さんはいなくなってしまうのだろう。できることならば、新校舎がずっと完成しなければいいのになあとさえ、思うこともある。

 別れのことは考えないようにしていたが、必ず訪れる。田中さんと仲良くなればなるほど、別れの辛さは大きくなっていく。でもだからと言って、僕は田中さんと仲良くするのをやめたくない。だから僕は全力で生きることにした。これからも、ジャンケンで全勝していきたい。

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