【第10話】認められた記憶などほとんどない僕がSTORYS殿堂入りの知らせを受けた日・・・ふと思い出した、忘れられぬ友人と交わしたある「約束」

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前編: 【第9話】認められた記憶などほとんどない僕がSTORYS殿堂入りの知らせを受けた日・・・ふと思い出した、忘れられぬ友人と交わしたある「約束」
後編: 【第11話】認められた記憶などほとんどない僕がSTORYS殿堂入りの知らせを受けた日・・・ふと思い出した、忘れられぬ友人と交わしたある「約束」

学習机の上に置かれたラジカセからは、ハスキーボイスのDJがリスナーのハガキを読んでいて、少しだけ開けられた窓から夏の夜風が入り込み、緑色のカーテンの端だけをもてあそぶように動かしている。

それは、吐いては吸うを繰り返す呼吸のように、ゆっくり一定のリズムで揺れていた。

富岡ちゃんはこたつテーブルの上に置いてあるタバコを左手で取ると、一本抜き取り火をつけた。

大きく吸い込んで吐き出したたばこの煙も、部屋に入り込む夏の夜風に乗って、ほんの少しだけ揺れた。

「親がつけたから仕方ないけどね。男は太郎・・・的な?」

「男は、太郎・・・的な・・・」

「ちなみに、1つ下の妹は・・・はなこだけど」

僕は頭の中で「太郎とはなこ・・・」と考えたら急におかしくなって、声に出して「太郎とはなこって」とつっこみを入れながら、笑った。

それは、毎度毎度聞かれているであろう「太郎」という名の来歴を説明するときの、お約束且つ鉄板の一発ギャグだと思ったからだった。

「いやいや、昔話じゃないんだから。太郎とはなこは最高だね、いやぁ、ウケたわ」

富岡ちゃんは、何も言わなかった。

むしろ、笑った僕に対して申し訳ないような表情で頭を搔いている。

「マジなんだよね、これ」

言いずらいことを、気を許した友達にだから、あえて、ここにきて、思い切って言ってみた。

つまりそういうことで、なんとも気まずい空気が流れたので、僕は再び問題集を手に取り、無意味にページをめくった。

「あ、ごめん。ギャグかと思ったから・・・」

すっかり冷めたコーヒーを一口すすり、場違いな笑顔をかえした。

「いや、いいよ・・・普通そうだよね、このリアクションで正解だよ」

そう言って、富岡ちゃんもコーヒーを一口すすった。

「それにしても、両親もなかなかだねぇ・・・太郎とはなこはなかなかだわ。富岡ちゃんの両親て何してる人なの?」

「教師。二人とも高校の数学の教師」

「へぇぇ。数学の先生かぁ。じゃあ、いつでも勉強教えてもらえていいねぇ」

「そうでもないよ、とにかく厳しい親だから。できないと怒られるし、教えてもらうって感じでもないなぁ。逆にプレッシャー」

「まあ、そうか・・・そうかもね。俺は全然数学出来ないからうらやましい気持ちもあったりするんだけどね」

「こうじゃなきゃダメって、そういう思い込みがある親でさ。だから、男なんだから太郎でいい、女ははなこに決まってる、そんな感じだと思う」

「そうか、親もねらってるわけではないんだ。いたってまじめな理由というか・・・」

「うん。でもこの名前のせいで随分いろいろあったけどね」

「そうなんだ・・・でも、太郎って名前俺は好きだけどな」

これは本心だった。

出来れば富岡ちゃんのことも、太郎という名前の方で呼びたいと常々思っていたのだから。

「苗字が富岡なんだよね、で、名前が太郎」

「・・・うん」

「大谷ちゃん茨城だからピンと来ないかもしれないけど静岡に富岡村ってのがあってさ。例えばここ練馬だよねぇ、練馬区役所とか行ったら用紙の書き方のサンプルの名前って、練馬太郎か練馬一郎じゃない?」

「ああ、住民票とか請求するときに書く見本みたいな・・・あれね」

「そう。じゃあさ、富岡村だったら何よ」

「富岡・・・・」

「太郎か、一郎なんだわ、それはそれで」

僕が言うか早いか、富岡ちゃんは話を引き取り、くわえタバコのままゴロンと床に寝そべって両手を頭の後ろで組んだ。

「高校とか行くといろんな街の中学から人が集まってくるよね」

くわえたばこのままそう言うとまた起き上がり、タバコの灰を灰皿に落とした。

「入学式とかで名前呼ばれたら、爆笑起こるからね、マジで。だって、考えてみなよ、この辺で言ったら高校に入ったと思ったその初日に、クラスに練馬太郎君が実在したら、笑うだろ」

「・・・・それは・・・確かに笑っちゃうね」

「さっきの大谷ちゃんじゃないけど、ギャグだよ、ギャグ」

この人は一体、どんな18年間を過ごしてきたのだろうか。軽い気持ちで彼の名前の来歴を訊ねてしまったけど、彼と別れることになるであろう来年の3月までに、どれほどこの人のことを知ることが出来るのだろうかと、そんなことをぼんやりと考えていた。

「名前もそうなんだけど、体も結構特徴あるでしょ・・・色が白いし髪の毛は茶色だし、目が悪いから眼鏡だし。この茶色い髪の毛は地毛なんだよ」

みんなの読んで良かった!

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