白いドーナツ現る

先日、私、風呂場で倒れました。


シャワーを浴びているときでした。


それは突然現れたのです。


「うわっ!白いドーナツが見える!」


突如、視界の中心に、大きな大きな真っ白のドーナツが現れました。


な、なんなんだ、これは!?と驚いていると、次第に気分が悪くなり、目の前にみえる白いドーナツの穴が徐々に閉じていき、それはそれは大きな真っ白い「○」ができました。


そいつのせいで何も見えなくなり、吐き気こそはないもののとても気分が悪くて、その場に立っていることができなくなりました。


消えてしまいそうな薄ぅーい意識のなか、何とかシャワーだけは止めて、その場に倒れました。


目を閉じてそのまま動かずにゆっくりしていると、いつの間にか、目の前の白いドーナツは消えていました。


それでもまだ、まるで濃霧のなかを彷徨っているような霧がかった視界は、しばらくのあいだ続きました。


薄ぅーい意識のなか目を開けて、そこに微かに見えるのは、私がこの32年間連れ添ってきた愛しき相棒のしな垂れかかる姿でした。


そのとき思ったのです。


もしこのまま死んだとして、誰かに見つかったとき、この愛しき相棒のしな垂れかかる姿を晒してしまう、とね。


もし私が逆の立場だったら、不謹慎であることは重々わかっていても絶対にそれを無視できない自信がある。


「うわっ!倒れとるじゃん!おい!大丈夫か!おい!しっかりしろって!(あ、ちんちんだ。)おい!おい!」


たとえそれがウィットなもの(うわーうわーちんちんだー!面白いなー!アハハ)であろうと、ドライなもの(はいはい、ちんちんね。わかったわかった)であろうと、その存在を完全に、完璧に無視できる人はいないはずだ。


風呂場で倒れてしまった私は、最悪の事態を考えて、どうにかして何かを着なければ、せめて隠すだけでもしなければいけないと思った。


這うようにして立ち上がる。


閉じていた目を開ける。


視界が悪い。気分も悪い。


タオルが見えた。


体に付いた水滴を拭き取る。


拭いたところから汗が吹き出る。


タオルで何度も体を拭う。


汗が止まらない。


立っていられない。


もういいや。


這うようにして風呂場から出た。


用意していた服が置いてあるが、汗が止まらないので着られない。


全裸で布団に倒れこんだ。


目を開けると、そこに愛しき32年モノの相棒の姿がある。


どうにかパンツだけは穿くことに成功した。


よし、これであとはどうにでもなれ、と腹を括った。


最悪の場合でも、職場で「今日あいつ来ないね。サボってやがるな。この野郎め」とはならない自負はあるので、心配した店長が窓を割って助けに来てくれるはずだと思った。


そんなことを考えながら10分ほど横になっていたら、霧が晴れてきた。


軽い頭痛は残ったものの、立ち上がることができるまでに回復した。


とりあえず汗を拭き取り、服を着て、一杯の水を一気に飲み干した。


なぜ倒れてしまったのか気になり、スマホを手にとって検索。


「白いドーナツ 見えた 倒れた」


それらしいものがヒットするわけもなく、よくよく調べてみると、どうやら「のぼせ」だった。


実は、シャワーを浴びる前に、46度の熱い湯槽に浸かっていた。


無性に汗をかきたくなり、でも運動するのもめんどくさかった私は、手っ取り早く、熱い風呂に入ればいいじゃんという考えに至ったのだ。


5分ぐらい浸かっていると、頭から、肩から、胸から、汗がポタポタと滴り落ちた。


「おおー汗がどんどん出てくるねー!いいじゃんいいじゃーん!」


30分ほど浸かり、湯槽からお湯を抜くと、のぼせた私ができあがった。


ただ、思い返すと少し怖い話だ。


「冬の入浴は“ヒートショック”にご用心」


という記事を見つけたからだ。


風呂の入り方は、一歩間違えると、命を落とすこともあるらしい。


今後は安易な考えで入浴しないことを心に決めた。


白いドーナツはもう二度と見たくない。

著者のみよし けんたろうさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。