「ニコニコ王国からの使者」のお話

これは娘が2歳だったころのお話。

当時、妻が僕にこんな話をしてきました。

2歳4カ月になる娘は、妻の一挙手一投足をじーっと観察しながら、駄々をこねてみたり、突然泣きだしたりして妻を困らせてようです。

妻も理由は分かっています。たくさんの言葉を覚えて自分の気持ちを伝えられるようになってきたこと。そしてもう一つ、弟(4カ月)が産まれたことです。

弟が産まれてからというもの娘の態度は目に見えて変わりました。ついさっきまで楽しそうに遊んでいたかと思うと、急に「抱っこして」と泣き叫んでみたり、妻が忙しいときに限って駄々をこねて、言うことを聞かなかったり。

僕が唯一厳しく躾けているご飯を食べる時の悪い態度(足を食卓に上げたりすること)を故意にしてみたり。

僕はそんな娘の姿を見て、2歳4カ月でも立派に自分の意思を持っているんだなあと変に感心してその光景を眺めています。
でも、24時間彼女と一緒にいる妻にとってはそんな呑気な問題ではありません。

妻は基本的に大変穏やかな性格です。短気な性格の僕とも決してぶつかることはありません。娘がまだ赤ちゃんだったころ、何をしても泣きやまない娘を優しく抱っこして、辛抱強く数時間ゆらし続けていた姿は実に感動的でした。これが母の愛情深さかと彼女の背中を見ながら感心していました。僕なんて数十分でイライラしていましたから。

そんな愛情たっぷりで優しい妻も流石に最近の娘の態度には閉口していたようです。そしてある日ついに娘を叱りつけてしまったというのです。

その夜、ちょっとヘコミ気味の妻はこんな話をしてきました。娘を叱りつけて数十分立ったところで妻はとても反省したのだそうです。僕が不在の時はずっと妻と娘と二人で過ごしてきました。だから弟ができて三人の生活が始まった時、一番つらい思いをしたのは娘だったのだということは妻が誰よりも理解しているのです。

そんな娘の気持ちを理解しているはずの自分が、その言葉の威力で娘の言い分(寂しい気持ち)を一刀両断してしまった。娘はどんなやりきれない気持ちだったことだろう。そんな風に反省したのだそうです。

気持ちを入れ替えていつもの明るさを取り戻し、一人で遊ぶ娘に近づいたのです。2歳4カ月の彼女は先ほどの気まずさなどどこ吹く風、何事もなかったように妻と再び遊び始めたとのことでした。
妻は正直ホッとしたのです。。ああ、子供は切り替えが早くて助かったと。


時間が過ぎていつものペースが取り戻されました。そしていつもの妻と娘の軽快なやり取りが始まりました。

「ねえ、パパのこと好き?」
娘は大きな声で答えました。
「パパ、好き~」

「じぁあ、じいじは?」
「じいじ、好き~」

「ばあばは?」
「ばあば、好き~」

「好き~」という言葉を使うと娘はテンションが上がっていきます。

そして妻は最後に娘にこう聞いたのです。
「じゃあ、ママは?」

妻はいつも通りの回答を待ちました。

でもその時ちょっと娘は考える素振りを見せてこう言ったのです。

「ママ、ニコニコ、好き~」


その言葉を聞いた妻は泣き出しそうになりました。娘を強く抱きしめたくなったそうです。

まだ2歳4カ月の娘が「ママの笑顔」が好きだと言ったのです。二人の子供が寝室で寝付き、静かなリビングで夕飯を食べながら妻からその話を聞きました。

僕はその時、瞬間的にハッと気づいたのです。

子供たちは僕たち大人を笑顔にする為にこの世に生れて来たのではないだろうかと。

僕と妻は結婚して約2年間子供がいませんでした。とても静かでゆったりとした時間を二人で楽しみました。二人でたくさんの話をし、たくさんの夢を語り合いました。そして娘が産まれたのです。

彼女は多くのものを僕たち夫婦に運んできてくれました。僕たちの両親の喜びと笑顔、親戚の笑顔、友達、近隣の方たちの笑顔。娘の誕生と共に我が家にたくさんの笑顔が集まるようになったのです。そして僕たちの毎日は彼らにつられるかの様に笑顔で満ち溢れたのです。

実はその頃、僕は会社を辞めるか辞めないかでものすごく苦しんでいました。妻に相談し、そしていよいよ会社を辞めることを承諾してくれた時でもありました。
でも娘が産まれた時、僕にとってそれはすでに取るに足らない問題になっていたのです。

娘がいればいい、妻がいればいい、家族がいればなんだっていい。僕には笑顔で支えてくれるたくさんの仲間もいるじゃないか。そして彼らの笑顔の中で暮らせていることに幸せと喜びを見出したのです。そしてその日から僕は「僕の笑顔」を取り戻したのです。


すべて娘の誕生がきっかけだったのです。
妻の話を聞いた時、僕にとって娘の誕生とは「笑顔を取り戻す」ことだったのだと気がつかされたのです。

「パパ、ニコニコするんだよ。それが大切なんだよ。」
こんなメッセージを娘は僕に投げかけてくれたような気がしてなりません。


さて、世の中には多くの悩みを抱えた親御さんがいるのかもしれません。産まれた子供の体が不自由だったり、病を抱えている子を持つ親御さん。幼くして命を落としてしまった子を持った親御さん。こんな特別な場合でなくとも、親の意に反する行為をしたり、親を困らせる子供を持つ親御さん。

子供を持つということは、自分以外のもう一つの悩みを抱えることであるのかもしれません。

でも、どんな場合にせよ、今日からこう考えてみたらどうでしょうか?全ての子供たちは親を「笑顔にする」という使命を受けてこの世に産まれてきたのだ、と
全ての子供たちは「ニコニコ王国からの使者」なのである。

また、すべての子供たちに託された使命は「親を笑顔にする」ということですが、時には肉体や精神にハンデを背負わされる子供もいます。つまり自分の肉体や命を削ってでも「親を笑顔にできるか」という宿命を背負わされるのです。

ある子供は体が生まれつき不自由で産まれたりします。
ある子供は現代医学では治せない難病を抱えてみたりします。
ある子供は徹底的に親に反抗して、親を疲労困憊させたりします。

でも彼らの心のど真ん中にはいつもこんな思いがはりめぐらされている。


「ほら、パパ、ママ、笑ってちょうだい。」


そんな子供は必死に自分の親を楽しませようとします。肉体的、精神的ハンデと闘いながらも親を笑顔にするという使命をまっとうするのです。

でも当の両親が悲しんでいたり、苦しんでいたり、怒っていたりばかりだったら、彼らはその役割を果たせないままなのです。彼らの頑張りはいつまでも報われないままなのです。僕たち親はそこに気が付くべきなのかもしれません。

すべての子供は親に笑顔をもたらす為に産まれてきたのです。彼らにとって最高のご褒美は「親の笑顔」なのです。そしてそれが彼らにとっての「愛」なのです。

どんな子供にも大なり小なりの問題が与えられています。なぜならそれらを克服することが彼ら自身の宿命だからです。

でも、その両親にとってはまた違う意味があるのです。様々な問題や悩みを抱えながらもそれでも「笑顔になれるか」ということなのです。

子供は親に「笑顔」をもたらし、結局その親は子供に育てられているのです。

おしまい

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