謂れ(いわれ)のない攻撃にどう立ち向かう?
長年エンジニアを務めていた松本勇政は今年からフロントスタッフとして、キャリアアップの道を辿っていた。
いわゆる、ジョブ・ローテーションというやつだ。しかし、良いことばかりではない。
松本は慣れない顧客対応に苦しんでいた。
望んでもいないローテーションだったため、 松本は特に苦しんでいた。
この日もこんなことがあった。
「おい!製品に不具合がでたぞ!こんな製品もまともに扱えないなんてどいつもこいつもポンコツかよ!」
「こっちは仕事が忙しいのにどーしてくれるんだ!製品が使えなきゃ人も使えねーな!さっさと直してくれ!」
顧客から浴びせられる容赦のない罵倒。
松本は度重なる罵倒をうまく対処することができず、この仕事は自分には向いていないのかも。と、すっかりと自信をなくしてしまっていた。
きっと僕には向いていないんだ。僕が使えないフロントスタッフだから、こんなにお叱りを受けるんだ。もっと使える人ならこうはならないんだろうな。
すると、そこへ先輩社員の田所が声を掛けてきた。
「松本、元気ないな。何かあったか?」
田所は同じエンジニア上がりの先輩フロントスタッフだ。
「実は自分はこの仕事に向いていないんじゃないかと思って、辞めようか悩んでいるのです。」
「ほう。なぜそう思ったんだ?」
「お客様から寄せられるお叱りに、自分には向いていないんじゃないかって…」
「ははーん。なるほど。松本、お前もしかしてお客様の罵倒がすべてお前に向けられたものだと思っていないか?」
「はい、違うんですか?」
「全然違うよ。実は俺もな、フロントスタッフになりたての頃は、お前のように毎晩毎晩落ち込んでたものさ。」
「えっ?田所さんもですか?」
「あぁ、そうだよ。だけどな、ある日突然、お客様の罵倒は自分に向けられているものではないということに気がついたんだ。
お客様はただ持っている怒りを吐き出したくて、その勢いでついつい人格のことまで罵倒してることもあるんだよ。
言ってる本人は気づいてないからタチが悪いけどな。」
「どうして気がついたんです?」
「俺もお客様に大変なお叱りを受けてな〜。とにかく、誠心誠意を込めて謝りまくったんだよ。相手がもういいよと引くくらいに。
そしたら、お客様がな、「こちらこそ、すまなかった。いや何も君が悪いわけではないんだよ。それはわかっていたんだがね。ついつい、止まらなくなってしまって」とおっしゃったんだ。
他にも
「仕事が詰まっていたので、すでにイライラしていた」
「先日、上司から嫌味を言われた」
「今朝、妻と大げんかをした」
とか、製品の問題とは関係のないことでストレスが溜まっていたことが原因というのがいくつもあってな。つい一度イライラすると歯止めが効かなくなってしまったんだよ。と言われることが多かったんだ。」
「そうですか。」
「だからな、それからはそういう人格破壊的なお叱りは全て流すことにした。
「きっと大変なことがあったんだろう。」
「この怒りは別の問題から来ていることだな。」
「不具合と人格批判は関係ないよな。」
心の中でこう呟くことで、一歩引いた観点からお叱りを聞くことができるんだよ。
もちろん、不具合に対しては真摯に受け止め、誠心誠意を込めて謝り、修正しなくてはならない。
だけどな、人格攻撃に関しては勢いによるもので、自分に怒りが向けられているわけではない。関係のない苛立ちに対しては何も反応しなくて良い。
そう、わかったら、すごく楽になってなー。それ以降あまり落ち込まなくなったよ。」
「あぁ、そうだったんですね。言われてみたら、たしかに自分とは関係のないことでお怒りになっていたかも。」
「問題が起こった時は、その問題に対して反応してしまいがちだけど、実際に本当の問題は何か?どこから来たものか?って突き詰めていくと別にあることが多いんだよな。」
「そうなのですね。今までずっと反応しっぱなしでした。違ったのか。僕が悪いわけではないのか。問題とは関係のない人格攻撃には反応しない。か。これは勉強になりました。」
「そうそう、人はイライラし始めると関係のないことまで言ってくるものだからな。それに惑わされちゃいけない。関係ないことで自分を疲弊させるなんて、くだらない。そういうのは全て無視だ。」
松本はまた自信を取り戻し、今度は謂れのない罵倒に惑わされることなく、元気良く対応できるようになった。
このような理不尽な罵倒にストレスを溜めたことはないだろうか?もし経験があるのなら、すぐ反応する前に少し冷静になってみよう。相手が怒っている内容を分析してみるのだ。冷静になって聞いてみると怒り始めた時の原因と関係ないことを怒っていることもある。
もし、関係のないことで怒り始めているのなら、まともに聞き入れるのではなく、反対に鵜呑みにすることをやめてしまおう。相手は良い機会だと言いたいことをベラベラ言いたいだけなのだから。
今話していることは問題とは関係のないことだな。ここは聞き入れなくて良いや。これが大事である。
そして、人格攻撃は無視しよう。これも元々の問題と人格攻撃とでは、論点が異なる。そんなくだらないことに付き合う必要はない。無視することに限る。
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