ばぁちゃんの冥土の土産

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ばぁちゃんの冥土の土産

 

午前十時、退院後のある日。

「ばぁちゃん、早く手をだしぃ」

月一回の病院通いの私は、その途中、老人が十二月の水野張った田んぼで、亀がひっくり返ったように、手足をバタつかせ泥まみれになっていたのを見つけた。

病院へ行く途中の道路は田んぼまで、一メートルぐらいの落差があり、体調の悪いばぁちゃんは、ふらふら歩いていて、そこに落ちてしまったのだ。

「こんなところで死にたくない」

ばぁちゃんは泥まみれの顔で、叫んでいた。私は泥のついた顔をジーッと目を凝らして見る。

「タミさんではないか。直ぐ助けに行くから」

私は靴を脱ぎ、冷たい水の中に足を入れ、タミさんをぬかるむ田んぼの中で何とか抱き上げ、道路まで引き上げた。

タミさんは人工透析をしていて、副作用のせいで目があまり見えない。息子たちは都会に出て行って、タミさんは一人暮らし。私の家から三軒目にタミさんの家があった。

 

そんなきっかけから、私たち夫婦はタミさんとの付き合いが始まった。彼女はアメリカに住んでいたことがあって、高学歴と息子が大企業に勤めていることを近所に言いふらし、なんとなく敬遠される存在になっていた。息子たちが正月に帰るかどうか今は心配事の一つであった。

「タミさん、大丈夫だよ、きっと帰ってくるよ」

「気ままに生きてきたのだから、息子の世話になりたくもないし、会いたくもない」

タミさんは毅然と言い放ったのだった。二人の息子はほとんど連絡してこないとのこと、親子の絆は、それぞれの家族の事情があるのだろうけど、私はタミさんがどんな気持ちで日常生活を過ごしているのか考えた。子ども達が都会に去った後には、底知れぬ孤独と暗闇が広がっていたのに違いない。自分が窮地に陥ったとき、タミさんはいつの間にか、息子のイメージで捉えていたのではないだろうか。

 

「正月、一緒に食事しないか」

私は息子の帰りを待っているタミさんを誘った。

「わしゃぁ、おせち料理は嫌いじゃけん」

嫌われてもいいという思いから、私たちを試すように言った。

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