おばあちゃんのドライバーは早稲田卒

さて、シドニーである。ここで、いきなりではあるが、12オーストラリア・ドルと聞いて、何を想像するだろうか。 
「ワンラウンドのゴルフ料金」と答えられる人は相当のオーストラリア通である。12オーストラリア・ドルとは当時の為替レート(1オーストラリア・ドル80円)で1000円位である。そう、わずか1000円でワンプレイ、ゴルフができてしまうのがオーストラリアという土地柄である。日本でゴルフと言うと、1回2万円近くもし、キャディーもついて・・・・・と高級レジャーのイメージだが、ここオーストラリアのそれは全く違う。普通の人の日常生活にすっかり溶け込んでおり、散歩のような感覚である。実際、ゴルフ場内は犬を連れて散歩している人がいると思えば、ブッシュ(茂み)に入ったロスト・ボールを拾っては売り歩いている少年の姿も見受けられたし、運がよければ、カンガルーという観衆の前でティー・ショットなんて場面にも出くわす。キャディーなどつくはずもなく、セルフカートが基本である。 
この(したきゃ勝手にやりなさい)という雰囲気が私はとても気に入った。私も週3回は近所にあるノースブリッジゴルフ場を回ることを習慣とした。時には早朝の散歩の一環として。時には仕事帰りの一杯の前に。ひとりで回っていると、やはり同じように「散歩」を楽しんでいるご同輩と一緒に回る機会がある。そんなときは、畏まらずに「ハロー、グッダイ、マイト(Hello!Good day,Mate!)」となまりの強いオージー・イングリッシュを意識的にオーバーに話すようにすれば、OKである。どうせ、日本人など英語の能力なんか欧米人から期待されるはずもないのだから、気さくなオージーは下手な英語なんか気にしない。気にしない。ノープロブレムで即席のゴルフ友達ができる。 
さて、そんなこんなでシドニー生活も1年を迎えたころ、念願(!)の引越しをした。場所はニュートラル・ベイの隣のモスマン地区。メインストリートに面しているフラット(日本でいうマンション)で、1階がバスルームと2部屋、2階が広いリビングルーム、3階は屋上になっていた。 
今度の家は清潔で、ゴキブリも出ず、セキュリティもしっかりしており、室内プールまであり、満足した。シドニー生活にも加速度的に慣れてきており、逆に言えば、トーキョーの生活をかなり忘れてしまったことを意味するのだが(これを浦島太郎化現象という)。
 ある日、テレビを見ていたら、日本からビッグニュースが飛び込んできた。 
  「日本のKobeという町で大きな地震が発生した模様。詳細は不明」というテロップが流れた。画面は日本地図に切り変わり、その中の神戸付近にマークがしてあり、先ほどのテロップを繰り返し流していたが、それ以上の情報は流れず、(どうしたんだろう?)と訝りながらそのままテレビを見ていたら、次の瞬間驚くべき映像が飛び込んできた。神戸一面火の海、メチャメチャに壊れた建物や高速道路、瓦礫の山々。逃げまどう人々・・・・・、それはとてもこの世のものとは思えぬ地獄絵図だった。自分の母国ニッポンで起きた大惨事を遠くはなれたオーストラリアでテレビの画面を通して見ている。それはとても不思議な感覚だった。1週間近く遅れて届く日本の新聞で被害状況が拡大されていく様を知るにつれ、これは未曾有のことが起きたんだと実感できた。オーストラリアのテレビでも新聞でも毎日トップニュースで伝えている。 
  テレビ映像から流れてくる凄惨な現場と、それを見ている自分が今住んでいるシドニーという街のあまりに平和でのどかな雰囲気がかけ離れ過ぎていて実感が湧かないというのが本音だった。実感が湧かないと言えば、地下鉄サリン事件もそうだった。トーキョーは大変だったようだが、自分にとっては遠い国の出来事のように感じられた。それはオーストラリアのサイドに立って物事を眺めている自分を再認識する縁ともなった

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