世界一愛される射場で、宇宙を射とめたロケットの話

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そして、着任して早々、イプシロンロケット2号機が2016年度冬に打ちあがることを知ります。まだ働きだして間もなかったのですが、3年前肝付町で見たイプシロンロケット試験機の感動がふつふつと沸き上がり、これは参加するしかないと思い立ちました。




なぜかそのころの私は、種子島打上げのロケットにライバル心を抱いていました。(今はどちらも応援していますが)肝付町のほうが、知名度で劣っているからかもしれません。


そんな中、HⅡ-Aロケットで人気漫画「宇宙兄弟」のイラストが貼り付けられ、種子島から宇宙に打ちあがるというプロジェクトが始まることを知ります。


これは肝付町のロケットでも出来るな・・・ロケットで地域を盛り上げたい。そう思いました。




そこで私は、あろうことか企画書も何もなく宇宙航空研究開発機構(JAXA)の内之浦宇宙空間観測所に行き、話を聞いてもらうという暴挙に出ました。


「もし・・・内之浦で、こういう事があれば、できると思いますか・・・?」


恐る恐る聞く私。普通なら即、追い返されてもおかしくないのですが、ポカンとあきれながらも職員の方々は話を聞いてくれました。


「企画書を、お願いします。」


当たり前です。なんて優しいのでしょう。


同僚の2人が付いていてくれなければ、緊張で一言も話せなかったかもしれません。


冷や汗をかきながら帰路に着きました。やはり、「人生で最も大切なことは、逆境とよき友である」と思いながら。




「肝付町のロケットといえば、何を思い浮かべるだろう?」


実験的であること?50年以上の歴史?それともおよそ7年かけて帰ってきた小惑星探査機「はやぶさ」?


やはりペンシルロケットから生まれた、固体ロケットの歴史だと思い立った私は、ロケットのフェアリング部分(機体の先端にあたる)に、ペンシルならぬ鉛筆のように色を塗る提案をしましたが技術的な問題から没になりました。


仕方ない次いこう。


また最初から「肝付町といえば・・・」と思い練り直します。


「人生で最も大切なことは、逆境とよき友である」


ふと糸川博士の言葉が頭をよぎります。肝付町の強みは、未知の事に果敢に挑戦するチャレンジ精神と、よき友である地元の応援があること。


「世界一地元から愛されるロケット射場」であること。


ならば地域の思いやシンボルが集結し、ロケットを盛り上げられることにしたいと考えました。


10年前に「高山町」と「内之浦町」が合併してできた肝付町。そこで、内之浦はロケット、高山は流鏑馬と言う意識があると聞きました。


地域の思いをひとつにして、ロケットを皆で応援しようという思いから、ロケットの2段モータの部分に「流鏑馬の矢」を刻む。そして、全国から肝付町へ、夢やイプシロンへの応援メッセージを募り、矢のマークに入れ宇宙に届ける。


このマークは「ダブルアロー」と名付けられ、イプシロンと肝付町のさらなる発展を祈るものとしました。


この企画が採用され、肝付町とJAXA共催で「イプシロンで夢を射とめよう!」プロジェクトが始まりました。




開始後、肝付町の宇宙サイト、「ウチノウラキモツキ共和国」にどしどしメッセージが送られてきます。


「宇宙飛行士になれますように」


「パティシエになりたい」


といった子供たちの夢から、


「イプシロン 大隅から打ちあがれ!」


「肝付町が世界一の宇宙の町になる様に」


といった地元愛を感じるものまで、様々な夢やメッセージが6,467件集まりました。


また「ウチノウラキモツキ共和国」では宇宙ファンも募集しており、知名度が低かったのですが、募集を機に、肝付町にはこんなロケットが打ちあがるんだ!という事を知って頂き、多くの人に参加して頂くことが出来ました。


不思議な縁ですが、締め切りの9月12日は宇宙の日。また、イプシロンロケット2号機が船で内之浦に上陸した日でもありました。




応募が終わると、「きもつき宇宙協議会」として、肝付町の宇宙資源やイプシロンロケットをPRするイベントを東京で行ったり、HPやSNSで紹介する等しているうちに、あっと言う間に打ち上げの12月が近づいてきます。




最初の企画で同行してくれた同僚の田中隊員は、「勝手に応援プロジェクト」と題して地域住民がカウントダウンする地元愛あふれる写真を撮影してくれました。これも大変好評で、内之浦の役場に展示してあり自由に見ることが出来ます。




打上げ間際には、内之浦宇宙空間観測所の開設時から支えてきた、「元 婦人会」の方々と千羽鶴を折り、プロジェクトチームに贈呈させて頂いたり、地元の方々と打上げ関係者が親睦を深める「ロケット交流会」で司会(補助)をさせて頂いたりと、ここでも「世界一地元から愛される射場」を身にしみて感じることが出来ました。




そうしてやってきた12月20日、打上げ当日。


天候が悪く、正直予定通り打ちあがるか不安でした。


その日は、福井から母が、福岡から妹夫婦が来てくれていました。


「上がる時は上がるよ」


どこかで聞いたようなセリフを、自分も口にしていることに気が付きました。


試験機の時はハズレた宮原ロケット見学場でしたが、2号機はスタッフとして見学場で打上げを見守ります。


打ち上げは午後20時ちょうどです。




不思議なことに、雲がすっかり消え、満天の星空が現れました。


打上げをひかえ、顔を出すイプシロンロケット2号機。


その機体には、肝付町に集結した夢やメッセージが、矢のマークとなって刻まれています。



「10,9,8,7,6,5,4,3,2,1、・・・」


カウントゼロ。



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